エグゼクティブは自分でメモを取る

このような差が見られるのはなぜなのか。以下、2人の専門家とともに意識調査の結果を読み解いていこう。

意識調査の対象者は、オーナー企業経営者や大企業役員、医師、弁護士といったエグゼクティブ。21人の回答者の中から16人分をランダム・サンプリングした。いずれも総資産約1億円以上、「年収もおおむね2000万円超」(増渕氏)という人たちだ。

富裕層マーケティングの専門家である増渕氏にとっても、意外に思えることが2点あったという。

「想像以上に『メモ魔』が多いことと、ノートの内容を長く保管する人が多いことです(Q1、Q2)。ほとんどの人が、メモを取ることや保管して見直すことに、明確な価値を見出しています。しかも、資産総額が大きい人ほどノート類を保管する期間が長く、読み返す頻度も高いという傾向が見られます。それはおそらく『メモの内容をフィードバックした結果、新たな発想や次のビジネスにつながった』という成功体験を持っているからだと思います」

そもそもエグゼクティブは自分でノートを取るのだろうか。回答(Q3)では、ほとんどが「自分でノートを取る」と答えている。「よく取るほう」という回答が過半数を占め、「部下など周囲の人に任せる」と答えたのは、1人だけ。

「世間にはいまも『偉い人はメモ取りを部下に任せているのでは』という昭和の価値観が残っているかもしれませんが、実態とは異なります。いま私がお付き合いしているエグゼクティブの方々で、部下を横に置いてメモを取らせる人はあまり見たことがありません」(増渕氏)

意外にも「昭和の価値観」を引きずっている人は、大企業の部課長クラスに見られるという。森本氏が転職支援に関わった部課長のなかには、「メモ一つ取らない方がいらっしゃいます」。

森本氏は転職時の面接対策として「もし面談内容を完璧に記憶しているのだとしても、手元がおろそかでは印象がよくないので、紙にメモするふりくらいはしてください。それも一つの熱意の表現方法です」と指導しているが、実際には完璧に記憶しているのではなく、「部下に記録を任せる習慣が抜けないだけ、という人も少なくありません」。

当然、大事な数字やキーワードを忘れてしまうケースもある。一度聞いた話を次の機会に聞き返すようでは、役員クラスに抜擢されるのは難しそうだ。