大学ノートよりもノートパッド

実は冒頭に示したチェックリスト「役員になる男の習慣」のなかで、意識調査の結果と矛盾する項目が一点だけあった。項目2の「資料の裏やコピー用紙にメモを取る」である。

(Q6)「ノートやメモを取る際は、何に書き付けますか?」に対しては、「スマートフォンなど電子デバイス」のほか、「こだわって選んだノートやメモ帳」「大学ノートなど市販品」と答えた人が多数を占めた。

しかし、増渕氏の実感では「エグゼクティブ層にはノートやメモ帳にこだわる人はほとんどいない。もしかすると、『よそ行き』の回答をされた方が多いのかなと感じています」。

というのは、次のような経験があるからだ。

「私はA4のコピー用紙を折りたたんで、そこに1週間の予定などを書き込んでいます。胸ポケットに入れておけば頻繁にチェックできますからとても便利です。それを見て、『君もそうやっているのか。実は私もそうだ』、あるいは『人目を気にして一応はダイアリーを使っているが、本当は私も紙1枚で済ませたい』という方が意外に多いのです」(増渕氏)

森本氏の意見も同様だ。

「エグゼクティブ層にはコピー用紙の裏や隅のあたりにメモを取る方が多い。営業系など職種によってはきちんとしたノートを使いますが、一般的には大学ノートなど定型のノートを持ち歩く人はあまりいません。むしろ1枚ずつはがして使えるので、RHODIAブランドなどのノートパッド(レポート用紙)を愛用する人のほうが多いと思います」

前出の上場企業経営者も「大きな声でいうことではないが、コピー用紙や資料の裏にメモをすることが多い」と打ち明けてくれた。

なぜノートではなく、あえて手近な紙を使うのか。

「エグゼクティブ層にはその場のひらめきや自由な発想を重視する人が多いため、定型のノートを取り出すよりも手近の紙を利用する傾向が強いのではないか」というのが、増渕氏の解釈だ。

Q6では、複数回答だが「スマートフォンなど電子デバイス」と答えた人が最多だった。

「思いついたときに書き留めたいので、身近にあるスマホや、ミーティング中に持っていたノートに書くことが多い」という回答が典型的だが、多くの人は紙のノートとスマホ類とを併用している。また「すぐメールで報告可能の為」という回答にあるように、電子メールをメモの手段として活用している人も少なくない。

だが、増渕氏によれば「40代以上に限ると、アイデアやキーワードを書き留めるメモはほとんど手書きです。私たちの世代はまだ、記憶に定着させるという意味では手書きのほうが優れていると信じているからです。スマホ類はあくまでもサブで、最初からスマホやPCに打ち込む人はいないのではないか」。

高価なアイテムにこだわるのは?

見てきたとおり、実質を重視し、ノートやペンにはこだわりを持たないのがエグゼクティブ層だ。その意識を持てるかどうかが、サラリーマン層との差かもしれない。

増渕氏はいう。「サラリーマン時代の私の上司や先輩には高価なシステム手帳を持ち歩く人がいましたが、今回のアンケートの対象になった方々にはシステム手帳を使う人はまずいません」。アイテムにこだわっているうちは、まだまだなのだ。

森本千賀子
リクルートエグゼクティブエージェント・エグゼクティブコンサルタント。1993年以来、2000人以上の転職支援に携わる。2012年、NHK「プロフェッショナル.仕事の流儀.」に出演。『1000人の経営者に信頼される人の仕事の習慣』など著書も多い。
 
増渕達也
ルート・アンド・パートナーズ代表取締役。東京大学卒業後、電通入社。2006年から現職。「ハイネットワースビジネス診断士」、「ハイネットワース相談士」資格を創設、内外から注目を集めている。
 
(撮影=永井 浩(森本氏)、市来朋久(増渕氏))
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