俺についてこいという前に、リーダーはみんなが抱いている不満や怒り、望んでいるものを的確に読むことも必要になりますね。
「もちろんです。時代の背景、社会の雰囲気、空気を読み切るのがリーダーです。もともと政治家はその資質がないとできない。いくら政策に詳しくても、戦略が卓抜でも、それだけでは政治家にはなれない。大切なのは、大衆の気持ちを掴むこと。これがすべてです。政策や戦略は優秀なブレーンを集めればいい。けれども大衆に直接語りかけるコミュニケーションは、本人がやらなければならない。
ケネディ大統領時代のセオドア・ソレンセンみたいなスピーチライターが見事なスピーチ原稿を書いても、役者が大根だったら話になりません。極端な話、国民が注目しているのはリーダーの発言内容ではありません。人物を見ているのです。<俺たちの気持ちをわかっている><私たちを守ってくれる>という共感が得られるかどうか。政治家として最も肝心なところを2人は押さえているのです」
それにしても、トランプの暴言の数々がよくアメリカで受け入れられましたね。
「我々の心の中には、いくつもの人格がありますが、その中には社会的規範で抑圧している人格もある。例えば、人種差別の意識。民主主義の国で、それなりの教育が行われ、社会的規範がメディアも含めて浸透している環境であれば、人種差別はダメと理解しているのが常識。公式の場では絶対に差別的発言はしません」
建前的な制約ともいえますが、よりよい人格を目指したいと思いますからね。
「理性的に考えると排外的な意識はよくない。従って、成熟した国では、そうした意識を表に出さない。しかし、人間は理性だけで生きているわけではありません。トランプは、不法移民問題など複雑なものごとを単純化し、ストレートに話す。八方塞がりの行き詰まった時代の中で、抑圧していたものをズバッと解放してくれるところがカタルシスになって受けた」
トランプは正直だ。俺たちの不満をわかっていると。