外商がお金持ちの上客相手に始めた新商売

世界中から名品を目利きのバイヤーが買い付けてきて、「ウチでなければ買えませんよ」というのが本来の百貨店の商売だった。しかし、今やどこの百貨店も同じモノを売っているし、「同じようなモノ」ならカテゴリーキラーの量販店やネット通販で買ったほうが全然安い。三越の前身、江戸時代の越後屋は仕入れ勝負だった。右から左に品物を流してサヤを抜くのでなく、反物を目利きして呉服に仕立てるのが越後屋の商売だったわけだ。しかし、今の時代に百貨店が原点回帰を決意して、大量のバイヤーを投入して世界中を回らせたとしても無駄な抵抗に終わる。なぜならネット全盛の時代だから。ネットで見つけたほうが早いのだ。原材料の仕入れ価格から売価まで丸裸になる時代に、目利き商売をするのは難しい。

三越伊勢丹が中国のアリババグループが運営する通販サイト「天猫国際」に出店した。これが反転攻勢のきっかけになるかといえば、逆に自分たちの首を絞めるリスクも潜んでいる。中国人観光客が三越や伊勢丹で買い物して、「中国でも買えたらいい」と好評だった商品をアリババの通販サイトで売ったとしよう。アリババで売るとなると2割程度は安くしなければならない。越境ECの時代には世界の主要市場で価格比較ができるので、より安い国から買うのが普通だからだ。となると、恐らく、その値段が日本国内でも定着していく。アリババよりも2割も高い値段では売れなくなるからだ。

活路を求めて、百貨店各社は新しい事業を模索している。軽井沢辺りでよく見かけるのは、高島屋や三越伊勢丹が仕立てたデラックスな観光バスだ。友の会の会員などお得意様を集めたバスツアーで、中国人観光客のバスツアーとはまったく趣が異なる。百貨店の外商はお金持ちの上客を抱えている。もう買いたい物がないような富裕層には、貴重な経験や体験を買ってもらう。絶景を眺めたり、美味しい物を食べたり、高価な美術品を鑑賞したり。そうした楽しみを盛り込んだゴージャスな国内外のツアー商品を開発して、お得意様に提供しているのだ。旅行代理店の真似事も現状は苦し紛れの方策だろう。しかし、「百貨」にモノ以外の付加価値を足すことができなければ、個人が世界中から越境ECで価格比較して購買してしまう時代に百貨店という業態は衰退するしかない。

(小川 剛=構成 AFLO=写真)
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