緊急事態とは何か、誰が判断するかを明解にする

【塩田】自民党は2012年に日本国憲法改正草案を発表しています。公明党は「加憲」を行うとすればどこをどういうふうに、と思っていますか。

【北側】いくつかあり、党内で相当、論議して、2004年くらいに論点整理していますし、公式の文書もいくつかありますが、党内でコンセンサスを得ている段階ではないんです。たとえば地球環境保護の問題。現憲法制定時に想定していなかったわけですが、将来の世代にとって極めて大事で、かつ世界的に普遍的な問題です。これを憲法の中にどう位置づけていくかは重要だろうと思いますが、各論の議論に入ると、難しい問題があります。

それから、緊急事態条項の問題ですね。東日本大震災を経験しましたが、あのときは統一地方選の直前で、被災地の東北3県は特措法をつくって、地方選挙を延期しました。国政選挙の場合は、議員の資格は衆参とも憲法に明確に任期が書き込まれていますから、選挙は延期できても、任期の延長ができない。東日本大震災のような国難とも言うべき危機のとき、立法機関が十分に役割を果たしていくのが議会制民主主義にとって大事だと私は思っています。

ですが、緊急事態条項の新設を主張する方には二種類あるんです。一つは、危機の際に議会制民主主義の機能をしっかり果たして政府をきちんとチェックし、政府の足らざるところは補完をしていくという考えで緊急事態条項の必要性を語る立場です。もう一つは、緊急事態のとき、迅速に対策を採るためなどの理由で、道路通行の制限とか、日常的に国民が持っている権利を制約する必要がある。国民の権利や自由を制約し、内閣総理大臣に権限を集中させる根拠を憲法規定の中に盛り込むべきではないかという考え方がある。

この二つは同じ緊急事態でも全然、意味が違う。後者の緊急事態条項は不要だと私は思います。というのは、日本は危機管理法制は世界の中でも相当でき上がっている国で、災害対策基本法を筆頭に、災害時における危機管理法制はそれなりの制度があります。他国から侵略があるような場合も、国民保護法という法律があり、法整備ができています。憲法であえて規定していく必要はない。むしろ弊害のほうが考えられます。

ただし、前者の意味での緊急事態条項は検討に値すると私は考えています。その場合も、緊急事態とは何か、緊急事態を誰が判断するかという問題は明解にしないといけない。

【塩田】現憲法は第96条で、改憲案の国会発議の要件を「総議員の3分の2」と定め、一般の法律よりも厳しい議決要件の「硬性憲法」となっています。自民党や日本維新の会は要件の緩和を唱えていますが、公明党はこの問題をどう考えていますか。

【北側】憲法は最高法規で、基本的人権の尊重を始め、普遍的な原理を定めていますから、硬性憲法は維持すべきです。3分の2の要件は維持しなければいけないと思います。

【塩田】日本維新の会は、最高裁判所とは別に憲法裁判所を設置して、合憲・違憲の立法審査や憲法解釈は憲法裁判所で、という案を唱えています。

【北側】公明党の党内でもいろいろな議論がありますが、私個人は憲法裁判所には反対です。憲法裁判所を採用している国は、だいたい失敗していますね。裁判官というのはオールマイティではないわけです。極めて大事な問題について、少数の独立性がある裁判官に任せて、それでいいのかという議論があります。逆にリスクがあるという気がしますね。民主主義という観点から考えたとき、果たしていいのかな、と私は疑問を持っています。