「首相在任中に改憲実現」からトーンダウン!?
7月11日の参院選の結果、党として憲法改正を容認する「改憲4党」の自民党、公明党、日本維新の会、日本のこころを大切にする党の合計議席が、改憲案の国会発議に必要な「各議院の総議員の3分の2以上の賛成」(憲法96条1項)を衆参で初めて突破した。安倍晋三首相は政権担当者として憲法改正を具体的な政治課題として位置づける筋金入りの改憲論者で、在任中の改憲実現に強い意欲を示しているが、第1次政権を担って約10年、首相復帰から3年半を経て、やっと改憲案の国会発議が現実的に可能な状況となった。
9月26日、参院選後、初めての国会が始まった。安倍首相は衆参両院の本会議で所信表明演説を行い、最後の部分で、「憲法はどうあるべきか。日本が、これから、どういう国を目指すのか。それを決めるのは政府ではありません。国民です。そして、その案を国民に提示するのは、私たち国会議員の責任であります。与野党の立場を超え、憲法審査会での議論を深めていこうではありませんか」と訴えた。
さかのぼると、1月21日の参議院決算委員会での答弁では、「いよいよどの条項について改正すべきか、新たな現実的な段階に」と改憲意欲を隠さなかった。3月1日に16年度予算の年度内成立が確実となると、「憲法発言」を連発し始める。「発議に必要な衆参の3分の2の賛成を得られるものから取り組みたい」(3月1日、衆議院予算委員会)、「私の在任中に成し遂げたい」(3月2日、参議院予算委員会)と明言した。
ところが、「改憲案発議可能」となったにもかかわらず、臨時国会では安倍首相の憲法答弁は「トーンダウン」の印象で、おやおやと思った人もいたに違いない。「首相在任中に実現を」と唱えていたのに、9月29日の参議院本会議の代表質問での答弁で「期限ありきのことがらではない」と述べる。10月5日、参議院予算委員会で「今の憲法のどこに問題があるのか」と問い質す民進党の蓮舫代表に対して、「首相として答えているので、憲法の中身については議論する立場にない」と答弁した。
自民党は谷垣禎一総裁時代の12年4月に独自の改憲案「日本国憲法改正草案」を策定した。民進党の野田佳彦幹事長は国会での憲法をめぐる協議の開始を前にして、自民党に対して「撤回を」と要求した。安倍首相は「日本国憲法改正草案」について国会で見解を聞かれると、判で押したように「行政府として改憲草案を提出しているわけではない」(10月5日)、「総理の立場で述べることは議論が進んでいくことに支障をきたす」(10月12日)と口にする。改憲構想の中身の論議には立ち入ろうとしない。