改憲に前のめりの安倍首相が協議の阻害要因!?

今年の臨時国会は、安倍晋三首相が改憲勢力と位置づける4党(自民党・公明党・日本維新の会・日本のこころを大切にする党)がその気になれば、数の上で憲法改正案の発議が可能となった初の国会だった。7月の参院選の結果、4党の合計議席が憲法第96条で定める発議要件の「総議員の3分の2」を衆参で上回ったからだ。

憲法問題を協議する国会の憲法審査会は、実質的に衆議院は2015年6月以来、参議院は15年9月以来、開店休業状態が続いていたが、今年10月に衆参とも活動を再開した。安倍首相は9月26日の所信表明演説の締めくくりで「憲法審査会での議論を深めていこう」と訴えたが、首相の強い改憲願望が憲法審査会の活動再開を促したわけではない。

憲法審査会では、むしろ「改憲に前のめりの安倍首相」こそ、協議の阻害要因と受け止める空気が強い。民進党の武正公一氏(衆議院憲法審査会会長代理)はこのシリーズのインタビューで、「安倍首相は『各党は憲法草案を』という趣旨のことを言っているが、踏み込みすぎで、私は越権と思う」と述べている。自民党憲法改正推進本部長代理の中谷元氏も11月25日の取材で、「首相は憲法にはくちばしを挟むべきではないと思う。憲法は国会で形ができて、国民がつくるもの。行政の長の発言を聞く気はありません」と語った。

憲法上、改憲案の発議権は国会が独占している。改憲論議は首相の目標や構想と関係なく、国会が独自に進めていく方針のようだが、臨時国会で憲法審査会が実質的な審議を行ったのは衆議院が11月17日と24日、参議院は11月16日だけである。安倍首相など改憲推進派からみれば、亀のような歩みと映るだろう。審議の内容も、制定の経緯や立憲主義、改正の限界、憲法に対する考え方など、「そもそも論」からスタートし、審議の進め方にも、「言いっ放しの大放談会」に終始しているという批判が付きまとう。

日本維新の会政調会長の浅田均氏(参議院議員)は国会での憲法論議を見て、「改憲反対の会派は『憲法審査会の議論は憲法に関する調査に限定すべき』と言い、自民党は『参議院の選挙区の2県合区解消のために、参議院は都道府県代表にすべきで、そのための憲法改正を』といった些細な話をする。これではまとまらない。各会派が具体的な案を持ち寄って改憲項目を絞り込む作業が必要」と強調し、「2年くらいでその作業を」と口にする。

だが、安倍首相は在任中の改憲実現が悲願だ。自民党総裁任期は2018年9月までで、党則改正による任期延長論も検討中だが、首相在任中の改憲実現は見通しが立たない。