改憲なしでも退位による皇位継承は可能

天皇は83歳の誕生日を3日後に控えた12月20日、記者会見でこの1年を振り返った。8月に発した「生前退位」に関するメッセージにも触れ、「ここ数年考えてきたことを内閣とも相談しながら表明しました」「多くの人々が耳を傾け、おのおのの立場で親身に考えていてくれていることに、深く感謝しています」と控えめに語った。

生前退位問題は8月の天皇自身の提起が突破口となって検討が始まった。政府は9月23日、「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」の設置を発表した。その後、有識者会議は11月に専門家16人に対して意見聴取を行い、12月14日までに計7回の会合を開いて、年内の作業を終えた。来年1月、論点を整理して見解をまとめる方針である。

座長代理の御厨貴東大名誉教授は「恒久法で定める場合、退位を認める客観的な要件をどうするかが極めて難しい」「今回は特例法で対応するのがよいだろう」「実現すればこれが先例になる」「先例があれば柔軟に対応できるのではないか。これが有識者会議の全体的な意向」と話している(日本経済新聞・12月24日付朝刊より)。生前退位は特例法で、というのが有識者会議の方向のようだ。

一方、内閣法制局の横畠裕介長官が9月30日に衆議院予算委員会で「憲法を改正しなくても退位による皇位継承は可能」「『皇位は皇室典範の定めるところにより継承』という憲法2条は、皇室典範だけでなく、特例法などの別法もそれに当たる」という趣旨の答弁を行い、特例法による退位容認の考えを打ち出した。続いて10月19日、菅義偉官房長官が衆議院内閣委員会で、2017年の通常国会に生前退位の法案を提出する意向を表明した。安倍晋三内閣は、18年の退位実現を視野に、特例法の制定を目指す構えである。

高齢の天皇の公務負担軽減については、世論調査の数字でも、国民の大多数が賛同しているが、生前退位を認めるべきかどうかは、少数派ながら異論も根強く存在する。摂政や国事行為の臨時代行の制度の活用を説く声も少なくない。天皇は内閣の助言と承認に基づいて憲法が定める国事行為を行うが、それ以外にも象徴天皇としての公的行為が認められていて、それが公務負担の原因だから、公的行為の大幅縮小を、と主張する人もいる。だが、政府は生前退位容認論に立ち、有識者会議のメンバーも容認論者を取り揃えた。

政府も有識者会議も特例法制定の方向だが、退位の法整備については、国民の間にも、一代限りの特例法で対応すべきか、皇室典範の改正による恒久的な制度化か、という議論がある。野党の民進党は、特例法について、蓮舫代表が「違和感がある」と述べ、党内には「違憲の疑いありという指摘も」と疑問を唱える声もあって、皇室典範改正論が有力だ。ところが、安倍内閣は先述のとおり特例法制定での早期決着を志向する。