「改憲総選挙」に打って出る可能性

問題はスケジュールだけではない。改憲項目の絞り込みと改憲案の取りまとめについて、改憲容認4党で調整がつくかどうかも大きな課題である。自民党は2012年4月に全面改正案の「日本国憲法改正草案」を独自に策定しているが、これにはこだわらない方針で、前文、天皇条項、第9条、改憲要件を定める第96条の改正などは回避する方向だ。

維新の会は幼稚園・保育園から大学までの全教育無償化、地方自治の章の全面改正を含む統治機構改革、憲法裁判所の新設を改憲3本柱と位置づけている。公明党は現行憲法の基本原理を維持して条項を加える「加憲」が基本方針だが、憲法調査会長の北側一雄氏は「第9条、第96条の改正は不要、憲法裁判所の新設には個人的には反対」と主張する。

そうすると、改憲4党で取りまとめができそうな改憲項目は、緊急事態条項の一部くらいしか見当たらない。現行憲法に定めがない緊急事態条項の新設構想では、緊急時に内閣や首相による基本的人権の制限を認める条項も検討課題となっているが、その部分を除いて、緊急時の議会制民主主義の機能維持などの規定の新設なら、足並みが揃いそうだ。

自民党の中谷氏は「憲法改正で地方分権、地方の創生と活性化を」と唱え、維新が説く地方自治条項の全面改正に同調の構えを示す。だが、自民党には、ホンネでは「全国一律・均一社会」の実現と中央集権体制の容認という考え方の持ち主は多い。安倍首相も含め、自民党全体を地方自治条項の全面改正で一本にまとめるのは簡単ではない。

『安倍晋三の憲法戦争』塩田 潮(著)・プレジデント社刊

安倍首相は第1次内閣を含め、政権担当はまもなく5年を超える。「1内閣1仕事」という言葉があるように、長期に政権を担った首相は「これが自分の仕事」と位置づける大きな達成目標を構想し、それに挑戦してきた。祖父の岸信介氏は日米安全保障条約の改定、在任7年8カ月の佐藤栄作氏は沖縄返還、中曽根康弘氏は国鉄・電電公社の民営化、小泉純一郎氏は郵政民営化に、それぞれ首相生命を懸けて挑み、在任中に成し遂げた。安倍首相が「これが自分の仕事」と狙い定めているのは改憲実現と見て間違いない。

だが、歴代の首相の仕事と比べると、根本的に性質が異なる大きな壁が潜んでいる。安保改定、沖縄返還、国営事業の民営化などは、すべて内閣と首相の権限で実現可能なテーマだった。ところが、改憲は発議が国会、承認が国民投票と憲法に定められている。内閣と首相は改憲について何の権限も権能も持たない。

もともと「できないテーマ」に、安倍首相は挑戦する気でいる。突破口があるのかどうか。今年の9月以降、衆議院の解散・総選挙をめぐって、「解散風」が何度も話題になった。今も2017年1月解散・2月総選挙実施説が消えていないが、現状で突破口となり得るのは唯一、「改憲総選挙」の仕掛け、と安倍首相が考えても不思議ではない。

自ら解散を断行し、総選挙を、首相としてではなく、自民党総裁として戦う。その際に、改憲の必要性と安倍流改憲構想を正面から国民に訴え、支持拡大を図る。「発議に関する国会の壁」と「できないテーマの壁」を打破する道はそこしかないと見定め、正面突破作戦に出る。狙いどおりに国民の間に改憲支持が広がり、改憲の気運が盛り上がるかどうかは保証の限りではない。だが、在任中の改憲実現を目指す安倍首相が、2月に憲法問題を最大の争点に掲げる「改憲総選挙」に打って出る可能性は小さくない。

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