選挙協力をめぐり、自民党と公明党の関係が悪化している。政治ジャーナリストの小田尚さんは「選挙で公明党の組織票が欲しい自民党、政権に参加することで影響力を得たい公明党。その双方に実利をもたらす連立政権は、今後も小競り合いが多少あっても、何事もなかったかのように続いていくのではないか」という――。
2023年度予算が成立後、公明党の山口那津男代表(左)と握手する岸田文雄首相(中央)=2023年3月28日、国会内
写真=時事通信フォト
2023年度予算が成立後、公明党の山口那津男代表(左)と握手する岸田文雄首相(中央)=2023年3月28日、国会内

「自公の信頼関係は地に落ちた」

公明党の石井啓一幹事長は5月25日、自民党の茂木敏充幹事長と国会内で会談し、衆院選挙区定数「10増10減」に伴って新設された東京28区(練馬区東部)での候補擁立を断念するとともに、東京都内の全選挙区で自民党候補を推薦しないとの方針を伝えた。会談には自民・森山裕、公明・西田実仁両党選挙対策委員長も同席した。

「東京における自公の信頼関係は地に落ちた」

石井氏は会談後、記者団に対し、茂木氏にこう告げたことを明らかにした。

多くのメディアは、この厳しい言い回しに反応し、「自公連立解消の可能性もある」「岸田文雄首相の衆院解散戦略にも影響か」などと報じた。その実態や経緯はどうなっていたのか。

公明は「10増」選挙区に目を付けた

公明党・創価学会は、次期衆院選では、東京で選挙区が25から30に増えることから、1月25日、新設される東京29区(荒川区、足立区西部)に岡本三成・元財務副大臣(旧12区=北区と足立区、板橋区、豊島区の一部=選出)を転出させると、先手を打って発表し、その後、東京28区でも擁立したい、と自民党に譲歩を求めていた。

公明党が「10増」の新選挙区に目をつけ、積極的に擁立を図るのは、近年、党勢の衰えが目立つからだ。衆参両院比例選での得票数が減少し続け、昨年の参院選では、過去に獲得した800万票を目標に掲げながら、618万票にとどまり、比例選議席も7から6に減った。公明党は次期衆院選の新選挙区に党幹部を擁立することで、全体の票を掘り起こそうとする狙いがある。

こうした方針を主導したのが、創価学会の原田稔会長の最側近の一人で、選挙対応の実務を仕切っている佐藤浩副会長である。

「これは原田会長の強い意志だ」

この話には前段がある。月刊誌『正論』5月号(4月1日発売)が詳らかにしたところによると、佐藤氏は2月27日、国会近くのホテルで、茂木、森山両氏と会い、10増となる選挙区の候補者調整に乗り出した。佐藤氏はこの場で、埼玉14区(草加、八潮、三郷市)に石井啓一幹事長(比例北関東ブロック選出)を、愛知16区(犬山市、江南市、小牧市、北名古屋市など)に伊藤渉政調会長代理(比例東海ブロック選出)を擁立する方針を明言した。

さらに、東京28区で擁立作業を進めているなどと伝え、「これは原田会長の強い意志です」と告げたという。『正論』は、佐藤氏の言葉は、公明党に最終的な決定権がないことを示している、と解説している。