「自公の信頼関係は地に落ちた」
公明党の石井啓一幹事長は5月25日、自民党の茂木敏充幹事長と国会内で会談し、衆院選挙区定数「10増10減」に伴って新設された東京28区(練馬区東部)での候補擁立を断念するとともに、東京都内の全選挙区で自民党候補を推薦しないとの方針を伝えた。会談には自民・森山裕、公明・西田実仁両党選挙対策委員長も同席した。
「東京における自公の信頼関係は地に落ちた」
石井氏は会談後、記者団に対し、茂木氏にこう告げたことを明らかにした。
多くのメディアは、この厳しい言い回しに反応し、「自公連立解消の可能性もある」「岸田文雄首相の衆院解散戦略にも影響か」などと報じた。その実態や経緯はどうなっていたのか。
公明は「10増」選挙区に目を付けた
公明党・創価学会は、次期衆院選では、東京で選挙区が25から30に増えることから、1月25日、新設される東京29区(荒川区、足立区西部)に岡本三成・元財務副大臣(旧12区=北区と足立区、板橋区、豊島区の一部=選出)を転出させると、先手を打って発表し、その後、東京28区でも擁立したい、と自民党に譲歩を求めていた。
公明党が「10増」の新選挙区に目をつけ、積極的に擁立を図るのは、近年、党勢の衰えが目立つからだ。衆参両院比例選での得票数が減少し続け、昨年の参院選では、過去に獲得した800万票を目標に掲げながら、618万票にとどまり、比例選議席も7から6に減った。公明党は次期衆院選の新選挙区に党幹部を擁立することで、全体の票を掘り起こそうとする狙いがある。
こうした方針を主導したのが、創価学会の原田稔会長の最側近の一人で、選挙対応の実務を仕切っている佐藤浩副会長である。
「これは原田会長の強い意志だ」
この話には前段がある。月刊誌『正論』5月号(4月1日発売)が詳らかにしたところによると、佐藤氏は2月27日、国会近くのホテルで、茂木、森山両氏と会い、10増となる選挙区の候補者調整に乗り出した。佐藤氏はこの場で、埼玉14区(草加、八潮、三郷市)に石井啓一幹事長(比例北関東ブロック選出)を、愛知16区(犬山市、江南市、小牧市、北名古屋市など)に伊藤渉政調会長代理(比例東海ブロック選出)を擁立する方針を明言した。
さらに、東京28区で擁立作業を進めているなどと伝え、「これは原田会長の強い意志です」と告げたという。『正論』は、佐藤氏の言葉は、公明党に最終的な決定権がないことを示している、と解説している。