上から目線で話さず相手の立場で聞く
そんなとき、視察に来られた創業者の石橋信夫オーナー(故人)が話してくれた「長たる者決断が大事」という言葉を、信念を持って進めと私は理解した。その日から社員の一人ひとりと朝に晩に、酒を飲まずにマンツーマンで徹底的な対話を始めた。販売拡大の根幹は「サービス力」であり、顧客サービスの最大のポイントは「スピード対応」であること。今日、今月、今期はどこまで仕事を進めるのか、目標を持とうではないか。俺はこういう思いでやっている、おまえもホンネを言え、もう怒らないと言って、相手を理解しようという気持ちでじっくり話し合った。その結果、私が往復ビンタをしたのも、課長の胸倉をとったのも、一生懸命のあまりそうしたのだということを、皆がわかってくれた。
社員が充分納得し、頑張り出してくれたおかげで、山口支店は翌年、社員一人当たりの売上高、利益高で日本一の支店になった。人間が持つ能力の差はたいしたことがない。モチベーションの差が違いを左右するのだ。その気になって働けば、おのずと本来備えている能力が発揮される。
私が大和団地の社長のとき、本社ビルは禁煙だったが、各フロアの階段の踊り場に喫煙コーナーを設けた。ほとんど酒を飲まない私だが、ヘビースモーカーなので、あちこちの踊り場へタバコを吸いに行った。社員はクモの子を散らすように去っていく。「待たんかい」と言って連れ戻し、よもやま話をした。1年も踊り場談義を続けると、警戒していた社員も胸襟を開き、遠慮のない声が聞こえるようにもなり、忌憚のない意見や情報が入るようになった。自分が上から目線で話をせずに、相手の立場で話を聞くことが大切だ。
1938年、兵庫県生まれ。関西学院大学法学部卒。63年、大和ハウス工業に入社。93年にグループ会社の大和団地社長。2001年、大和ハウス工業社長。04年より現職。著書に『熱湯経営』『凡事を極める─私の履歴書』などがある。