ミスを恐れて消極的になるな

【稲盛】仕事でミスや失敗をしたら、反省をし、そこからまたやり直せばいいのです。そのとき、有意注意で、錐のようにすべての意識や神経を先端の一点の目的に集中すればミスは減り、必ず成功に近づいていきます。

【鈴木】ミスや失敗を減らし、仕事の精度を高めるには、一つの方法として、常に仮説を立て、実行し、結果を検証するという「仮説・検証」を繰り返すやり方も効果的です。セブン-イレブンの店舗では、パートやアルバイトのスタッフも商品の発注を分担しますが、そのプロセスで欠かせないのが「仮説・検証」です。

お客様のニーズは日々変わります。そこで、気象情報や地域の行事など、明日のニーズを察知させる先行情報をもとに、明日の売れ筋の仮説を立て、発注し、販売の結果をPOS(販売時点情報管理)システムのデータで検証する。もし仮説が外れていたら、そこから学習し、次回の仮説に活かします。商品アイテムごとに意識を集中して、これを繰り返し、仮説の精度を高めていくのです。

実際、セブン-イレブンの1店舗あたりの平均日販が他チェーンより12万円以上高いのは、一つには「仮説・検証」の成果でもあります。

【稲盛】情報も無意注意では察知できませんね。

【鈴木】発注でミスをしたくないという消極的な姿勢でいると、先行情報にも注意がいかなくなる。ある商品を昨日、3個発注したから、今日も同じく3個発注するという、漫然とした単なる補充発注になりがちです。すると、品揃えがマンネリになり、お客様は離れていって、より大きな失敗に結びついてしまいます。

「仮説・検証」はすべての仕事にあてはまります。常に問題意識を持っていれば、大切な情報や必要な情報が頭の中に引っかかり、それをもとに意識を集中して仮説を立てていけば、ミスや失敗はかなり防げるはずです。

 
稲盛和夫
京セラ名誉会長。1932年、鹿児島県生まれ。55年京都の碍子メーカーである松風工業に就職し、ファインセラミックの研究に邁進。59年、27歳のときに、京都セラミック株式会社(現・京セラ)を設立。通信自由化を受けて、84年に日本初の異業種参入電気通信事業者となる第二電電企画(現・KDDI)を設立。2010年には民事再生法の適用となった日本航空(JAL)の会長に就任。無給で再建に尽力し、12年に再上場を果たす。
 
 
鈴木敏文
セブン&アイ・ホールディングス
名誉顧問、イトーヨーカ堂会長。1932年、長野県生まれ。中央大学経済学部卒業後、東京出版販売(現・トーハン)入社。63年、まだ5店舗の中小企業であったヨーカ堂(現・イトーヨーカ堂)に転職。73年セブン-イレブン・ジャパンを創設して日本一の小売業に育てる。2001年、日本初の異業種参入銀行であるアイワイバンク銀行(現・セブン銀行)設立。05年セブン&アイ・ホールディングス設立。
 
(勝見 明=構成 本浪隆弘=撮影)
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