あなたの会社にも、こんなタイプの人はいないでしょうか? A課長はバリバリ仕事をしているようには見えません。終業時間になると、いつもそそくさと帰宅。休み時間には、スポーツや音楽、アフターファイブの飲み会の話題で盛り上がっています。「この人、やる気があるんだろうか」と疑っていたところ、意外にも仕事の成績は優秀だったりして驚く――。

A課長のような人は、限られた時間で最大の成果を上げる「時間当たりの生産性」が高いタイプで、作業スピードが速いことに加え、もう1つの大きな長所があります。それは要領のいい「力の抜き方」を心得ていることです。仕事を重要度で仕分けし、重要な仕事には力を入れ、そうでない仕事には手をかけません。私はそれを「最善主義」と呼んでいます。仕事に時間がかからないので、余裕があります。しかし、傍からは一見して働いていないように見えてしまうのです。

実はそうしたタイプは、各界で活躍する著名人の中にも大勢います。その代表が世界的なテニスプレーヤーである錦織圭選手です。試合中に錦織選手は、対戦相手が有利なセットでは「あきらめモード」になり、ボールを懸命に追ったりしなくなります。でも、取れないセットで手を抜くのを、「スポーツマンらしからぬ」と思ってはいけません。実は、世界で勝ち残るための見事な戦略を取っているのです。

対戦相手が有利なセットでは「あきらめモード」になる錦織圭選手。でもしたたかな勝利への戦略が秘められている。(写真=AFLO)

テニスの試合は4時間に及ぶこともある長期戦。体力で勝る外国人選手と渡り合うために、スタミナを温存して「ここぞ」というときに備えているわけです。反対に、自分に勝機があるセットでは、錦織選手は全力を尽くしてもぎ取りにいきます。それが彼の強さの秘密なのです。

一方、ビジネスの世界では、日本人の真面目な気質のせいか、何事にも手を抜けずに全力投球してしまう、いわば「完璧主義タイプ」の人をよく見かけます。しかし、完璧主義は仕事上で弊害のほうが大きいのです。

完璧主義のBさんは仕事にミスがないか心配で、時間が許す限り何度もチェックします。仕事ぶりが丁寧なので、会社からの評価は高いのですが、仕事に必要以上の時間をかけ、残業や休日出勤も多い。次第にストレスがたまり、それが原因で仕事の能率が下がるという悪循環にも悩んでいます。

それでもプレーヤーのうちは、完璧主義でも仕事を何とかこなせるでしょう。しかし、マネージャーになると、そうはいきません。とりわけ、最近では管理職でありながら、実務も担当する「プレーイングマネージャー」が増えています。Bさんは無事、課長に昇進したものの、部下が1人減ってしまい、穴埋めのため、自分でその部下の仕事も引き受けました。その結果、長時間労働で疲れ果てて精神を病み、休職を余儀なくされてしまいました。