こうした違いは「それぞれの国の歴史や国民性を反映しています」と、みずほ情報総研の近藤佳大氏は説明する。民間の経済活動を重視するアメリカや、IT立国を国家目標として掲げるエストニアは、効率や利便性を優先。一方、ナチズムの記憶から個人情報の国家管理に警戒心が強いドイツでは、個人情報が容易にひも付けされないシステムを世論が求める。
効率化の一方では、悪用も増えている。アメリカでは、従業員の不正などで盗まれた社会保障番号(SSN)による「なりすまし」が横行。クレジットカードを勝手に作られたり、ローンを組まれたりする被害が後を絶たない。ある推計では、2014年には国民の7%にあたる約1270万人が、なりすましの被害を受けたという。
最近多発しているのは所得税の還付金詐欺で、他人になりすまして確定申告を行い、還付金を騙し取るというもの。米内国歳入庁(IRS)によれば、14年度に調査したなりすまし事例は1043件、有罪判決が出たのは748件だった(前年度比75%増)。米会計検査院(GAO)の報告では、13年度分のなりすましによる不正還付の総額が58億ドルに達したという。
北欧諸国でも、なりすましによる被害は問題となっている。スウェーデンのなりすまし被害者は年間約6万5000人。ノルウェーやデンマークなどでも同様の状況だ。携帯電話を勝手に契約して国外の有料電話サービスに接続し、高額の使用料を請求する例もあり、個人向けの「なりすまし詐欺保険」を提供する会社も登場している。
番号つきの個人情報が大規模に流出する事件は、欧米ではあまり起きていない。だが「ネット実名制」をとる韓国では、SNSなどに登録した住民登録番号を含む個人情報が、たびたびサイバー攻撃で盗まれてきた。さらに14年にはコンピュータ・セキュリティ会社の社員が、クレジットカード大手3社の顧客情報を不正に持ちだして転売。住民登録番号とひも付けされた氏名や住所、信用情報などの個人情報が、のべ1億人分以上も流出した。
韓国政府は最近、限られた範囲外での住民登録番号の収集を原則禁止。代わりにi-PINと呼ばれる新しい番号の使用を推奨するなど、番号システム全体の再構築を迫られている。