1時間の会議より10分間の対話を

ときには部下を厳しく叱ることも必要でしょう。すべての叱責が悪いことだとは思いません。ポイントは、何を目的にするか。部下を自分の思い通りに動かしたいのであれば、叱責も有効でしょう。でも、部下を成長させたいのであれば、それは効果的ではありません。

私はよく人の成長をマラソンにたとえます。「走れ!」と怒鳴られた人は、100メートルや200メートルなら走れるでしょう。でも、マラソンは無理です。マラソンを完走するためには、「走りたい」という自発的なマインドが必要です。部下の成長は1週間や2週間で達成できるものではありません。叱責に頼るばかりでは、部下を育て、組織のパフォーマンスを高めることはできないでしょう。

その加減を知るには、部下とのコミュニケーションをしっかり取ることです。部下に関心を持ち、接点を増やすことから始めましょう。接点がなければ、質問の内容も思いつけません。

コーチングはつねに1対1で行われますが、これも重要なポイントです。人間関係をつくるのは1対1の積み重ねです。集団での会議をいくら重ねても、部下との距離が縮まることはありません。

我々の調査でも、1週間に10分間でも上司と1対1の時間がとれている職場は、組織活性度が高くなることがわかっています。この調査結果によると、単にまとまった時間を設けるだけではなく、部下が「自分のために時間をとってくれている」と感じているかどうかが、組織を活性化させるうえで重要になるということでした。

定期的に話す。期待する役割を伝える。成功や成長を支援している――。効果のある行動はさまざまですが、まずは1対1の時間をつくり、問いを投げてみてください。部下を変えるのは、あなたの質問なのです。

コーチ・エィ取締役 粟津恭一郎
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科国際経営学専攻修了。ソニーを経て、コーチ・エィへ。エグゼクティブコーチとして経営者のコーチングを受け持つ。2011年より中央大学大学院客員教授を兼任。
(構成=呉 承鎬)
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