もう一つは「オープン・クエスチョン」。「何が原因だと思う」「どうしていきたいの」など、自由に答えられる質問です。こうした質問は、部下自身に答えを考えさせることになり、成長を促します。ポイントは「なぜ」や「べき」を避けること。「なぜできないのか」「どうすべきなんだ」という問いでは、萎縮を招くばかりです。

また「オープン・クエスチョン」を発展させるうえでは、2つの技法があります。一つは「チャンクダウン」。「何が原因だと思う」「その背景は何だろう」と問題点を掘り下げていきます。もう一つは「スライドアウト」。「原因はほかにあるかな」と問題点を引き出していきます。これらを組み合わせると、やりとりがスムーズです。

相手の未来や過去を質問のネタにする

具体的な質問は、相手によって違います。「個別対応」が必要です。たとえば時間にルーズな部下に対して、いくら「時間を守るように」と注意しても効果は薄いでしょう。「遅刻をする人間が信用されると思うか」という問いでも不十分です。私であれば「仕事をしていくためにはどんな要素が重要だと思う」と質問します。回答のなかに「信頼関係ですかね」というフレーズがあれば、「信頼関係を維持するためにはどういう行動が必要かな」と問いかけます。おそらく「報告をきちんとする」「時間を守る」などと答える。そこで「『時間を守る』とは、具体的にどういうことかな」と投げかけます。ここではじめて、「自分は時間を守れているか」という問いが生まれる。行動を変えるのは自発的な問いです。

いうなれば、上司の仕事とは、一人ひとりの部下に対して「彼(彼女)にとって必要な質問はなんだろうか」と考えることにほかなりません。そのためには情報を集めましょう。

私は経営者や役員にコーチングを行っていますが、そのときには対象企業のニュースや経営状態、理念、ほかの役員からのフィードバックなど、さまざまな情報に目を通します。コンサルタントではありませんから、アドバイスをするわけではありません。ただし、いい質問を考えるには、相手のことを知っておく必要があるのです。

部下への質問を考えるときには、社内外の人間が、その部下をどうみているか、という情報を集めておくといいでしょう。

ありがちな失敗は、部下の「現在」だけで判断すること。部下の過去や未来に目を向けてみましょう。過去にどういう意識を向けて仕事をしてきたのか。どんな成果をどういう努力によって成し遂げたのか。将来、何を成し遂げたいと考えているか。たとえ情報がなくても、そう考えてみれば、質問のレパートリーは一気に増えます。