チラシの印刷代を10分の1にできた理由
【田原】料金はどうですか。たとえば松本さんのところに新聞の折り込みチラシを1000枚頼むと、いくら?
【松本】チラシ1000部なら送料込みで2000円からです。従来だと2万~3万円ですから、10分の1です。
【田原】そこを聞きたい。普通は中間業者が入るとマージンを取られて高くなりますね。ラクスルはどうして安いのですか。
【松本】もともと印刷業界は下請けが多い業界です。というのも、印刷機によって刷れるものが限られているから。たとえば名刺の印刷を受注しても、ポスターを刷る印刷機しかなければ印刷できません。そのため仕事を印刷会社同士でどんどん回していく構造になっていて、それが料金を押し上げる要因になっていました。
【田原】仕事を回すのはラクスルも同じじゃないの?
【松本】従来はどの会社にどのような印刷機があるのかが可視化されていなかったので、仕事の回し方が非効率でした。一方、私たちは価格比較サイトで関係ができた2000社のネットワークの中から最適な会社と印刷機を選んで発注しています。稼働状況も把握しているので、空いた機械を活用して効率的に印刷でき、そのぶん料金も抑えられます。
【田原】空いている印刷機を使うという意味では、シェアリングエコノミーといってもいいのかな。
【松本】始めたときにはシェアリングエコノミーという言葉もなかったので意識していませんでしたが、考え方は似ていますね。
【田原】それにしても料金10分の1はすごい。
【松本】じつは生産の仕組みも違います。印刷には銀色の製版を使います。A4の印刷物なら、通常は同じ製版を8枚つくり、それを並べて印刷します。一方、私たちは1日数千単位の注文があるので、1つの印刷物につき製版は1枚で、種類の違う製版を8枚並べて印刷して、後から切り分けるというやり方が可能です。この方法なら製版のコストが8分の1で済む。少ロットの注文ほどこのメリットを活かせるので、お安く提供できるのです。
【田原】なるほど。そんなに安いとお客さんも多いでしょう。いまはどれくらいですか。
【松本】ユーザーは25万人です。
安く提供することで、新しい市場が広がる
【田原】気になるのは、やはり業界の斜陽化ですね。印刷業界の中でシェアを高めても、市場自体が小さくなると成長しにくい。そこはどうお考えですか。
【松本】先ほど言ったように、いま減っているのは雑誌や本です。一方、私たちが得意としているのはチラシや名刺といった少量印刷。この分野はそれほど減っていないので、問題ありません。
【田原】ただ、量は変わらなくても、単価が下がれば市場は縮小しますよね?
【松本】じつはお安く提供することで新たなニーズが掘り起こされています。いままで印刷会社はチラシ1000部というような小ロットの印刷をあまり受けてきませんでした。1000部2万円程度だと、営業が動いて見積もりを出したり配達する人件費で消えてしまうからです。しかし、私たちはインターネットで固定費を抑えているので、1000部2000円でも利益が出ます。その価格で提供できれば、これまでチラシの印刷を頼みたかったが頼めなかったお客様からも注文していただけます。
【田原】そうすると、むしろ市場が広がっていく可能性もあるわけだ。
【松本】Uber(ウーバー)と一緒ですね。Uberは単価を下げることで、いままでタクシーに乗らなかった人の需要を掘り起こしています。印刷業界でも単価を下げることで新たなお客様を取り込めるはずです。