“Stay hungry, stay foolish”――スティーブ・ジョブズの有名な演説に影響された富山県生まれの起業家が取り組むのは、印刷業界の革命だ。

A4サイズのフルカラー印刷のチラシが1枚1.1円~、両面フルカラーの名刺が1箱税込み500円など、従来の10分の1という格安の価格を実現している、ネット印刷の「ラクスル」。

ラクスル社長の松本恭攝(やすかね)氏は、富山県出身。スティーブ・ジョブズの演説に感銘を受けてシリコンバレーに行き、「仕組みを変えれば世界はもっとよくなる」という“宗教”の信奉者となったという。

外資系コンサルタント会社を辞めた松本氏が目を付けたのは、15世紀からある“古い”業界、印刷業界だった。シリコンバレーの洗礼を受けた若者が、印刷業界の革新に乗り出した理由とは? 松本恭攝氏と田原総一朗氏の対談、完全版を掲載します。

寺&公務員一族から、ベンチャー起業家が生まれた

【田原】松本さんのお名前は難しい字を使ってますね。「攝」ってどういう意味ですか。

【松本】「摂」の旧字体で、優しさという意味です。実家の本家が寺の家系で、祖父や父、そして兄と私も、代々引き継いでいる字だそうです。

【田原】伝統的なことを大事にしている家系から、ベンチャー起業家が生まれるのはおもしろいですね。

【松本】私は富山出身で、父と母は富山県庁で、兄は高岡市役所。おじとおばは学校の先生という公務員一族。とてもコンサバティブな家庭でしたから、大学を卒業して外資系のコンサルティング会社に就職したときは、「松本家から民間人が出た」と親戚一同から驚かれました(笑)。

【田原】どうして民間に行こうと考えたのですか。

【松本】学生のころに、国際ビジネスコンテストの企画運営をするサークルに入ったことが大きかったですね。