人生を変えた、ジョブズの演説

【田原】就職先は外資系コンサルティング会社のA.T.カーニーですが、卒業の前に海外に留学していますね。

【松本】外資系に就職が決まったのに、英語が全然できなかったんです。前にTOEICを受けたら340点。このままではさすがにまずいと思って。バンクーバーに留学しました。

田原総一朗
1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所入社。東京12チャンネル(現テレビ東京)を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。若手起業家との対談を収録した『起業のリアル』(小社刊)ほか、『日本の戦争』など著書多数。

【田原】留学中にシリコンバレーへも行っている。これはどうして?

【松本】当時、英語の勉強をするために、スティーブ・ジョブズが2005年にスタンフォード大学で行った演説を繰り返し聞いていました。有名な“Stay hungry, stay foolish”というスピーチです。これを1日に何十回と聴いているうちに洗脳されて、どうしてもシリコンバレーに行って世界を変えようとしている人たちに会ってみたくなったんです。

【田原】誰に会ったのですか。

【松本】会いたい人に片っ端からメールを送ったら、ほぼ皆さん会ってくれました。なかでも強烈だったのは、曽我弘さんです。曽我さんはシリコンバレーでつくった会社をアップルに売却した伝説の日本人。お会いしたときに70歳前後でしたが、「定年退職して残りの人生は短いが、時間の流れが速いここなら勝負できる」といって、シリコンバレーの最前線でバリバリにやっていました。人間何歳になっても、チャレンジし続ければエキサイティングな人生を送ることができる。そのことを教えていただきました。

【田原】シリコンバレーの空気はどうでした。

【松本】梅田望夫さんの『ウェブ進化論』という本の中に、“making the world a better place”という言葉が出てきます。世界をより良くするという意味で、シリコンバレーではみんながこれを言っているという話でした。実際に行ってみると、たしかにみなさん同じ趣旨のことを話していて、非常に共感しました。世界をより良くするということが本当に正しいことなのか、よくわかりません。でも、理屈ではなく、そういうものだという気がしました。いわばシリコンバレーの宗教みたいなものですが、すっかり私も信仰するようになったのです。弊社は“the better system the better world”、つまり「仕組みを変えれば世界はもっとよくなる」というビジョンを掲げていますが、ほぼ同じ意味です。