大切なのは儲けよりも、社会の課題を解決すること

【田原】さて、起業して6年半経ちました。事業はもう黒字化しているのですか。

【松本】いや、黒字ではなく、まだ初期投資の段階です。インターネットというとお金がかからないイメージがあるかもしれませんが、eコマースはかなりの初期投資が必要。楽天さんも、アマゾンさんも、みんな100億円以上使っています。私たちはいま外部から58億円の出資をいただいていますが、それも大きな事業をつくるために使っています。

【田原】黒字化はまだ先ですか。

【松本】そもそも私たちがやりたいのは、利益が強く出る会社をつくることではなく、業界のあり方を変えること。世の中のインフラになるくらいのインパクトのある事業をやりたいので、利益よりも投資が優先です。

【田原】じゃあ、上場もしない?

【松本】ベンチャーキャピタルさんが入っているので、上場も考えています。ただ、上場は事業を拡張するための手段であって、目的ではありません。目的は、やっぱり業界を変えることです。

【田原】まさに“making the world a better place”だね。儲けを一番に考えていないのがおもしろい。

【松本】いまは儲けようとして儲けられる世の中ではないと思います。大切なのは、社会の大きな課題を解決すること。それが結果的に事業の成長、しいては儲けることにつながっていくのではないでしょうか。

【田原】わかりました。ぜひ頑張ってください。

松本さんから田原さんへの質問

Q.昔といまの経営者、どう違いますか。

【田原】日本人の気質は、いまも昔も変わりません。かつて日本の陸軍は、下士官は世界一、将校はまあまあ、将軍は最悪と言われていました。いまの日本も同じです。サラリーマンの下のほうは優秀だけど、中間管理職はまあまあで、経営者は頼りない。アメリカのビーム社を買収したサントリーHDの新浪剛史社長が、「アメリカの会社の経営層は戦略的で、ガンガン勝負する。日本の経営者は守りの経営で、勝負しない」と言っていたけど、僕もそう思います。

ただ、終戦直後の経営者はみんな攻めていました。松下幸之助や盛田昭夫、本田宗一郎もそうです。あの世代が攻めの経営をできたのは、焼け野原で守るものがなかったからでしょう。幸か不幸か、いまの日本の状況は当時に似ています。その意味では、これからまた攻めの経営者が出てくるのかもしれません。

 

田原総一朗の遺言:いつの時代も攻める者が成功する

(構成=村上 敬 撮影=宇佐美雅浩)
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