加熱に耐える菌も存在する
私たちは、諸外国と比較したときに「日本は衛生面で非常に進んだ国」と思いがちです。もちろんそれは間違いではありませんが、では果たして「飲食店は清潔か?」と問われると、必ずしもYESとは言いきれません。
例えば、アメリカやイギリスでは保健所にあたる機関が、飲食店を衛生面で定期的に評価してランク付けをしています。一方、日本では開業時こそ保健所による検査はありますが、よほどのことが無い限り、それ以降保健所が立ち入ることはありません。衛生管理はすべて店舗に任されているわけです。
また、外国では飲食店の調理工程で、ビニール製の使い捨て手袋を使うことが極めて一般的ですが、日本では大手による経営や意識の高い先進的な店舗以外では、まだまだ素手の出番が多いものです。もっともこれが行き過ぎて、アメリカでは「寿司を素手で握ることの是非」が大きな議論になっているのは、笑えない笑い話と言えるでしょう。
食中毒のリスクをゼロにするために規制をどんどん強化するというのは、個人的には健全とは思いません。特定の食べ物には一定のリスクがあるという前提に立ち、「安全と思える店や環境で食べる」「体調の悪いときには避ける」「子どもやお年寄りには食べさせない」などの自己防衛への意識が私たちには必要なのでしょう。
最後に意外と知られていない話を1つ。一般的に高温加熱すれば大抵の菌は死滅すると思われがちですが、食中毒の原因の1つであるウエルシュ菌は、高温に強いという特徴があります。加熱調理したものを一定期間常温で放置すると増殖してしまうのです。
煮込んだカレーをしばらく室内で放置しておいて、その後冷蔵庫に入れておいて翌日や翌々日に食べるというのは、ごく一般的なことです。しかし、条件次第ではそのカレーにはウエルシュ菌が大増殖している可能性があるのです。寝かせたカレーはおいしいものですが、これからの季節、くれぐれも食中毒にはご注意ください。
子安大輔(こやす・だいすけ)●カゲン取締役、飲食プロデューサー。1976年生まれ、神奈川県出身。99年東京大学経済学部を卒業後、博報堂入社。食品や飲料、金融などのマーケティング戦略立案に携わる。2003年に飲食業界に転身し、中村悌二氏と共同でカゲンを設立。飲食店や商業施設のプロデュースやコンサルティングを中心に、食に関する企画業務を広く手がけている。著書に、『「お通し」はなぜ必ず出るのか』『ラー油とハイボール』。
株式会社カゲン http://www.kagen.biz/