──で、マクラは、リサーチというわけだね。
それと、お客様に落語本編を聞いてもらいやすい状態にウォームアップするというのが大事。親しみを持ってもらう、仲良くなるというのが私がマクラを振っているときの考えですね。落語家がマクラで大きくスベると、この人、ツマらないという印象だけが残ってしまうんで、私、前座時代にマクラ禁止令が出たことがあります。古典落語というのは面白いものだけが残っているわけで、ちゃんとやれば間違いなく面白いんです。下手なマクラでマイナスの状態から始めるくらいなら、いきなり本編に入りなさいと。
営業トークだって、商品がよければ、ペラペラ薄っぺらなことをしゃべるよりも、武骨に訥々と語ったほうが信頼される場合もあるでしょう。
ビジネスでは、笑いを取らなくったって構わないですし。
──じゃあ、名刺交換のとき、どんな話をしたらいいんだい? 相手を気持ちよくさせるために褒めまくる?
褒めるのは技術がいりますからね。相手が何を褒め言葉と受け取るかも初対面ではわからないわけですから。だからたぶん一番うまくいくのは、こちらが、相手のことに興味があることをどれだけ示せるかじゃないでしょうか。素直にどんどん質問をする。興味を持たれて気分が悪いという人は少ないでしょう?
──んー、じゃあ、志の春さん、年収はいかほどで?
下世話すぎ! いきなりボーダーライン踏み越えてどうするんですか。
でも、名刺交換したときに黙っているよりも、名刺から情報を読み取って、質問をする特訓をしておくといいかもしれません。名刺はヒントの塊ですからね。名前、住所、部署名、ロゴから質問を考え、会話を展開していくんです。
──困ったら、自虐ネタとか出身地ネタと聞きますが。
そうですね。自慢話よりかは自虐ネタのほうがいいですが、自虐っぽくって実は自慢話ってケースもありますからね。自虐自慢みたいな。笑っちゃうぐらい堂々と自慢ばかりするキャラだったらそれはそれで極端で面白いのですが。それに自虐ネタは、初対面の人が笑っていいのか迷うようなものもありますし。
──それじゃあ、いったい何をしゃべればいいんで?
軽い失敗談なんかいいんじゃないですか?