「コンセプト型」より「イメージ型」の言葉を選んで使う

【入山】なでしこジャパン(日本女子代表)の予選敗退も、そのあたりに要因があるのでしょうか。

【手倉森】世界チャンピオンになって、一度は成功の頂点に立ってしまいましたからね。勝ち続けていたからこその難しさはあったでしょう。

【入山】興味深いのは、手倉森さんは「自分たちは弱小国だ」と認めながら、同時に「でもトップを目指そう」と伝えることです。一見矛盾していますよね。

【手倉森】そのほうが意欲が湧きますよね。大きな目標に向けて、全員がさぼらずに必死に努力して、個人もチームも成長していく。それが勝利につながれば、それは皆、感動して泣きますよ。悔しい思いもたくさんしてきたわけですから。今の時代、そういうことを学べるのがスポーツ、特にチームスポーツでしょう。その意味でも、社会の中でスポーツは必要だと思います。

【入山】それにしても手倉森さんは言葉の使い方が素晴らしい。心が焚きつけられます。アメリカ大統領の演説を分析した研究では、評価が高い大統領ほど、抽象的な「コンセプト型」の言葉より、情景がうかぶ「イメージ型」の言葉を使う比率が高いことが示されています。手倉森さんもイメージ型の言葉が多いですよね。

【手倉森】多分そうだと思います。単に「点を取れ」ではなくて、「ゴールを奪いにいけ」とか、とにかく気合の入る言葉を使いますね。言葉を伝えるには空間も大事ですから、ミーティングで全員に掛ける言葉と、部屋に選手を呼んで掛ける言葉はきちんと選ばなければいけない。常にそこは意識しています。ときにはメディアの報道も活用しますよ。最終予選の初戦の前には、皆ガチガチに緊張していたので、「おい、日本のスポーツ紙の一面は『SMAP解散?』らしいぜ」と(笑)。注目はSMAPに集まっているんだから、落ち着いていこうと声を掛けました。

やはり選手をその気にさせるのは指導者の役割。そこで選手が本気になって、結果を残して、それを見て「俺たちも」と本気で世界を目指す仲間が増えていく。そういう環境をつくっていくことが大切だと思っています。