手倉森流「人の育て方」3つの極意

今回の対談で驚いたのは、手倉森氏の選手育成が、経営学やビジネスの第一線で主張される理想的な「部下の育て方」と、驚くほど共通項があることだ。

第1は、質問力。優れた「コーチング」は指図せず、的確な質問をすることだと言われる。手倉森氏も「こうしろ」とあえて言わず、「どこが悪かったか」と質問をし、選手に自律的に気づく機会を与えている。

第2は、言葉の選び方。ボールを保持することを「握る」、前にパスを出すことを「運ぶ」と呼ぶなど、手倉森氏は情景を思い描ける言葉を巧みに選び、使っている。経営学でも、「頑張れ」よりも「汗をかけ」のような、イメージ型の言葉が重要なことが示されている。こういった言葉遣いも、手倉森氏が選手の心を掴むのに寄与しているのだろう。

最後に、失敗に向き合う姿勢だ。経営学では、「最初は失敗を重ねたほうが、長い目で見れば成功しやすい」という研究成果がある。失敗すれば「自分の世界観は間違っているかもしれない」と考え、学習を怠らなくなるからだ。手倉森氏は驚くほど真摯に自身の失敗を受け止め、それを選手と共有している。監督も選手も学習を怠らなかった結果、今回の勝利を手繰り寄せたのだろう。

早稲田大学ビジネススクール准教授 入山章栄(いりやま・あきえ)
専門は経営戦略、グローバル経営。近著に『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』。
 
(構成=Top Communication 撮影=松本昇大)
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