【入山】経営学でも、早いうちに失敗を重ねた組織のほうが、中長期的には成功するという研究成果があります。

【手倉森】そう思います。選手には、負けることを恐れるな、という話をしました。でも、そのなかで勝てたらすごいことだぞ、と。「おまえたちは何も成し遂げていない。でも、俺も何も成し遂げていない。だから、一緒に大きなことを成し遂げようぜ」と、チームとしての仲間意識をつくり上げていきました。

【入山】なるほど、反骨心と仲間意識。同じ船に乗っているということですね。

【手倉森】反骨心を植え付けたいのに、いかにも成功者みたいな顔で、「おまえはああだ、こうだ」と上から言うのは、具合が悪いですよね。成功したいのなら1人ではできないということもしっかり伝えていく必要があります。

【入山】どうすれば反骨心を植え付けられますか? ビジネスの世界でも、若い世代の心に火をつけたくて苦労しているリーダーがたくさんいます。

【手倉森】ひとつには、頭ごなしに指示するのではなく、自分で考えさせること。例えば「積極的にチャレンジしろ」とは言いますが、具体的にどうするかは自分で考えさせる。考えてチャレンジした結果、失敗しても、それを責めたりはしません。ただ、「なぜ失敗したのか」「どうすればうまくいくのか」、問いかけるようにしています。

【入山】質問することで、本人が答えを見つけていく。まさにコーチングの基本ですね。叱ることはありますか。

【手倉森】気が抜けている選手がいたら叱ります。でも、叱らざるをえないような最悪の状況になる前に、自分で気づくようもっていくことが多いですね。

【入山】逆に褒めることは?

【手倉森】「今のプレーはよかったぞ」みたいなことはよく言います。ただそれで、図に乗っていないかも同時に見ています。調子に乗ると往々にして失敗する。失敗した選手にはすかさず「あの言葉に甘えたな」って言って、また次の言葉を掛けるんです。

【入山】きめ細かいですねえ。マニュアル世代の若い人は、自分で考える経験が少ないとも言われていますが、地道に働きかければ通じるものでしょうか。

【手倉森】通じますよ。ただ、押しつけは禁物です。U-23年代も「おとなしすぎる」「感情を表さない」などとよく批判されますが、教育も含め、こうした社会をつくった上の世代の責任です。「おまえたちはガツガツしていないからダメなんだ」などと説教されても、反発するだけです。この世代はこういうものだと、一度認めて受け入れて、そのうえで変えていけるところは変えていってやろうと考えています。