こうしてみると、女は排卵期にわずかながら唇の赤みが増し、膨らんでいるはずだし、性的に興奮したときにも同様の状態になるはずだ。
そのようなわけで、女が赤い口紅をつけることの意味。それは、排卵期にあること、そして性的に興奮しているという、2つの状態をまねることではないか、と考えられているのである。口紅の色には極めて性的なメッセージが込められているのだ。
すると次に考えられるのは、赤こそが重要であり、赤または赤に近い色以外の色では、妊娠のしやすさや、性的な興奮の信号とはなりえないのではないか、ということである。
このあたりについて研究したのが、アメリカのニューヨーク州、ロチェスター大学のA・J・エリオットらだ。
そこそこ魅力的な、ある女子学生の白黒写真を撮り、加工技術によって写真の周りを赤、白、グレー、緑のいずれかの色で囲い、プリントアウトする。そうして赤と白、赤とグレー、赤と緑の組み合わせで男子学生に評価させる。するとどの組み合わせでも、赤のときのほうがより魅力的で、性的な欲望もより感ずるとの評価だった。
赤の持つ力はこれほどまでに強力だ。ほとんどの口紅が赤系なのも頷ける。
1979年、京都大学理学部卒。同大学大学院博士課程にて動物行動学を専攻。91年『そんなバカな!─遺伝子と神について─』で第8回講談社出版文化賞「科学出版賞」受賞。『男と女の進化論 すべては勘違いから始まった』『遺伝子が解く! 女の唇のひみつ』など著書多数。