一方、伊藤正孝氏も大学時代、イギリスに留学中、バレエを鑑賞して感動。今も同じ盛和塾の塾生が代表を務めるバレエ団の公演に足を運ぶ。目的は「三昧の境地にひたるため」だ。この三昧にこそ、稲盛流の意識の持ち方の極意が秘められている。伊藤氏が話す。
「読書三昧、ゴルフ三昧などといいますが、三昧とは本来、仏教で精神の集中が深まりきった状態です。雑念を去り、心を集中させると、対象がありのままとらえられる。それは、交差点を車で右折する際の意識に例えられます。対向車、歩行者、後続車、信号などに注意しますが、どこを見ているかというと、どこも見ていない。でも、状況に瞬時に対応する。どこにも執着せず、全体に集中していると、意識が素早く反応できる。これが三昧です。JAL再建中、稲盛塾長は月例の業績報告会で出される資料に膨大な数の数字が並んでいても、全体を眺めると、問題のある数字が向こうから目に飛び込んできたそうです。これも三昧です」
稲盛理論では、三昧は顕在意識と潜在意識で説明される。顕在意識は意識の5%しか使っていない。三昧は残り95%の潜在意識まで使うため、大きな力が発揮される。伊藤氏がいう。
「ビジネスで使う数字や論理は左脳の領域です。全体に集中し、全体が見えてくる三昧は、感性や直感の領域である右脳を動員しなければならない。その集中の仕方を、仕事以外の場で体験するのは大きな意味があるでしょう」
左脳、右脳の両方が働けば、人間としての総合力が高まる。自己投資をするなら、三昧の境地に至ることのできる対象を見つけてはどうだろうか。
ファイナンシャル・プランナー。ロムルス代表取締役。
1972年生まれ。生命保険の営業を経て、2007年より現在の事務所を立ち上げ、生命保険のコンサルティングを行う。09年より盛和塾新潟に参加している。
税理士、ファイナンシャル・プランナー。
1960年生まれ。プライス・ウォーターハウス・クーパースを経て、2004年に伊藤正孝税理士事務所を立ち上げる。稲盛氏の勉強会「盛和塾」では盛和塾横浜の元会計担当事務局を務めた。