【弘兼】つまり新しいエリアがオープンしたときに、お客がどれだけ増え、収益がどれだけ増えるかというシミュレーションをしたわけですね。
【森岡】はい。1つ目のモデルは「コンセプトテスト」。新エリアのコンセプトを説明して、アンケートなどで反応を確かめます。マーケティングではオーソドックスなやり方です。
2つ目のモデルは「マーケットシェア」。コンペティター(競争相手)の相対的な強さをはかって、市場でのシェアがどのように変化するかをシミュレーションします。
最後のモデルは「映画観客数」。ブランドの「選好度」を調べるうえで、映画はいい指標になると考えました。つまり「ハリー・ポッター」の映画を観たことのある人は、テーマパークにも興味をもつはずです。そこで、米国における映画の観客動員数とテーマパークの来場客数の相関関係を調べ、日本での「ハリー・ポッター」の映画の観客動員数から、需要予測を行ったんです。
【弘兼】だから多くのパークが大ヒット映画をテーマにするんですね。
【森岡】そうです。よそのパークにも映画をもとにしたアトラクションがありますから、その映画の観客動員数とテーマパークの来場客数との相関関係もモデルに組み込みました。
【弘兼】そうしてはじき出された数字が、森岡さんの論拠となった。
【森岡】数字は誰にでも通じる「共通言語」だと信じています。社長も実は心から反対しているわけではなく、より確実性の高い論拠を求めていますから、最終的には納得し、計画実施を決断してくれました。どれだけシミュレーションをしていても、失敗すれば倒産の危機に追い込まれるハイリスクな投資です。最初に提案した私よりも、意思決定をした社長のほうがすごいと思いますね。
(1)「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター」の様子。手前中央には「バタービール」を売る屋台が見える。(2)対談を収録した平日16時ごろでも「110分待ち」の表示だった。(3)「ホグワーツ城」のなかにある「動く肖像画の部屋」。(4)USJではクルー(スタッフ)がゲスト(客)に積極的に話しかけるように指導されている。清掃クルーが若い女性と談笑していた。(5)テーマは「セサミストリート」から「エヴァンゲリオン」まで幅広い。(6)漫画「進撃の巨人」の「15m級巨人」が等身大で再現されていた。