低賃金構造を解決するために必要なこと

小売業を中心とした店舗ビジネスは、過去、人件費水準を低く抑えることで利益を確保してきた業種です。具体的には、(1)非正規社員比率の高さ、(2)平均年齢の低さ、という2大要因がありました。しかし現在、それらが崩れようとしています。

まず(1)については、日本全体の構造的問題から、正社員重視の流れにシフトしつつあります。国策でもありますが、有期雇用契約の社員が5年を過ぎると無期契約に移行することが義務づけされ、短時間労働者に対する「社会保険の適用拡大」、「最低賃金の引上げ」も急ピッチで進みそうです。

(2)については、少子高齢化により日本全体の平均年齢が上がっていることに加え、65歳雇用延長の実質的な義務化、企業の成長鈍化による採用数の抑制、主たる労働力であった若年女性の晩婚化・未婚化などが挙げられます。

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主な上場小売企業の平均年収

しかし、既に小売業は、人件費水準の最も低い業界の一つです。社員の人件費水準をこれ以上低く抑えれば、採用の妨げになったり、既存社員のモチベーションを低下させたりします。特に優秀な社員の意欲を低下させるのが問題で、最悪の場合は転職してしまう可能性もあります。総額人件費を抑えながら、優秀な社員の賃金を引き上げるにはどうすればいいのかを、工夫しなければなりません。

平均賃金を上げるには、社員1人当たりの生産性を高めればよいのですが、日本の小売業界は逆行してきたように思います。国内消費が伸びないにもかかわらず、企業間競争激化のため営業時間を延長し、コンビニなど24時間営業も当たり前になりました。当然、全体で見れば、生産性指標である「時間当りの販売額」は低下していきます。消費者の便利さに応えようとするあまり、小売業は低賃金・低収益のスパイラルにはまっているといえるでしょう。

セイコーマートという、北海道を中心に店舗展開するコンビニエンスストアがあります。私も利用したことがありますが、高収益企業であるだけでなく、サービス産業生産性協議会が実施するJCSI(日本版顧客満足度指数)で、2014年まで4年連続でコンビニ部門トップを獲得するなど、利用者からも評判の高い会社です。セイコーマートには、24時間営業の店舗もありますが、地域によっては夜12時か1時までの営業店も少なくありません。この会社に、小売業の生産性向上のヒントがあるように思います。

例えば、コンビニはセブンイレブンという名前の通り朝7時から夜11時までの営業に戻し、百貨店やスーパーは週1回店休日を設け、営業時間も短縮する。法律か業界全体で、これくらい思い切ったことを行わない限り、小売業の生産性は伸びず、低賃金構造は改善しないのではないでしょうか。

そのためには、便利さに慣れた我々消費者が、一定の不便さを受容しなければなりませんが。

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