ユーモアを交えて自らを語る口調は、日頃メディアを通じて見る険しい表情や言葉遣いからは窺い知れない。そこには、大きなことを口にする傍らで細心の注意を払うことを怠らない、豪胆にして小心な、29歳の青年実業家の顔が見えてくる。

「サッカーをするにしても、僕の場合は子供の頃からチームを率いて、先頭に立つことが多かった。大きなことを口にして負ければ、子供社会なりにほかの人より大きな責任が僕にかかってくるわけです。そういう立場で、たくさんの失敗を経験したからこそ、どうやったら失敗するかについては、ほかの人よりもよく知っていると思う。だから、細心の注意を払う。僕のビビりの部分です。これは失敗を通じて学んで身につけたもので、今も身につけている最中だから、5年後、10年後にはもっと失敗がわかる細心の人間になっているでしょう」

小心なまでに次に備えることで、選手として自分を追い詰め、ACミランの10番を背負うところまで駆け上がってきた。そして、今、挑戦の舞台をクラブ経営にまで広げた男の目には、チームは単に所属する場ではなく、自らが動かす組織として見えている。

「安定して結果を出し続け、潰れない組織が、強い組織ですね。さまざまなポジションで担当する人が入れ替わっても機能する組織と言ってもいい。トップの交代で経営が悪化するような会社は強い会社ではないし、サッカーに置き換えると、たとえば監督が代わっただけで負けが込むのは、強い組織とは言えない。そして、その会社なりチームなりが強いか弱いかは、業績の悪いときにわかるものです。弱い組織は、結果が出ないとき、統制が取れなくなる。不平不満と言い訳が蔓延し、不調の原因を人のせいにして、右に行く人もいれば、左や後ろへ行く人もいて、みんなバラバラに行きたい方向へ行く。もう、動物園ですよ。ですから自分たちの組織がそういう悪い組織になってはいけないと気をつけながら、物事を決断するようにはしています」

統制が取れないというのは、組織内で考え方が共有されないことを意味する。では、その原因は何か。本田はさらに深いところまでを見据える。

「僕がよく思うのは、考え方が共有されているかどうかより、そもそも組織としての考え方が決まっていないのではないか、ということです。会社の考え方、哲学が細かいところまで決まっていなければ、会社員は、何をすればいいか、何をすれば評価されるかがわからない。ミランの現状もこれです。結果が出ない難しい状況を打開しなければならないが、どんなスーパースターが入団しても立て直しができない。しかし本来、しっかりした強い組織であれば、それほどのスーパースターでない選手でも結果を出せるのです」