友達の喜ぶ顔が見たくて質のいい泥団子を準備
多くのアスリートが語るのは、次の試合への希望であり、現役の間に目指す目標である。しかし本田は違う。何か大きなことをやりたい、のだ。それが、子供たちの指導でありクラブ経営であり、若手選手と、ひいては日本サッカーの牽引なのである。しかしなぜ、これほど大きな夢を抱くのか。より多くの努力を要する道に、あえて入っていく理由と原動力は何か。
「どうでしょうか……DNAではないと思うんですよ。僕の場合は、置かれた環境で育っていった反骨心が、原動力になっているのかもしれない。謙遜するわけではなく、僕はサッカー選手として能力だけ見たら本当に凡人です。小さい頃から『世界一のサッカー選手になる』と言ってきましたけど、そのときいつも周りには自分よりうまい選手がいたので、『おまえには無理だ』と言われ続けた。だから、本田圭佑の反骨心は、もしかしたら人よりもコンプレックスとして、強い。でも裏を返すと、天才もいないと考えています。自分より上の選手は、自分より努力しているだけ。責任はすべて自分にある。そこをDNAのせいにはしたくない」
さらに、努力の源泉は、もうひとつあるようだ。
「環境によるものかどうかはわかりませんが、自分がエンターテイナーであることは自覚しています。親や先生、友達を喜ばすのが好きだった。思い返してみても、幼稚園の頃からずっとそうです。たとえば、泥団子で遊ぶことが事前にわかっていたら、一緒に遊ぶ友達には内緒で準備をはじめます。せっかく遊ぶなら質のいい団子で、質の高い遊びをしたいでしょう。だから、休み時間に砂場の土を50センチくらい掘って粘り気のある、いい土を掘り出して団子を作り、遊ぶときのために3つ4つと隠しておくんですよ。そういうことには、モチベーションを感じます。まあ、独りよがりで相手が喜んでくれると思っていたら、全然喜んでいなかったこともありました。要するに、そんなヤツですよ、自分は」