大荒れに荒れた転籍前の「課長合宿」
製薬業界は2000年代半ばに外資との競争で事業再編が相次いだが、ある大手製薬会社では、本社の生産部門などを子会社化し社員を転籍、その後に売却するという大規模な改革を実施した。
業績が絶好調なうちに贅肉を削ぎ落とし、改革できるものは改革せよというトップの方針に基づき、新設子会社に約1000人を移籍、約500人を希望退職により削減。本社人員を3分の2に減らし、同時に子会社の給与も競合他社の水準に合わせて3割削減するという大改革だった。当然、社員にも動揺が走る。残る社員だけではなく、子会社に移る社員の気持ちを萎えさせないための意識改革も同時に実施された。その1つが課長職全員による3日間の合宿研修である。
当時の人事担当者はこう語る。
「会社の置かれた状況や改革の必要性を社員全員に会って説明し、理解してもらうことは不可能です。課長がその気になれば、部下の5人くらいはその気になってくれるかもしれません。合宿では通常の研修と違い、あえてプログラムを用意しませんでした。経営トップの話を聞いて、一人ひとりが何をすれば会社の価値を高め、業界のなかで勝ち上がっていくかについて徹底的に議論しようというものでした」
議論は大荒れに荒れた。参加者のなかには、すでに子会社への転籍が決まっている課長たちもいた。生産部門の1人が居並ぶ課長を前にこう口火を切るシーンもあった。
「あんたたちがのうのうと暮らすために、俺らは給料の7掛けで転籍しようとしている。また、一部の社員は早期退職を要請されている。それなのになんだ、おまえらは! おまえら営業がもっと薬を売っていたらこんなことにはならなかったんじゃないか。正直言ってあんたたちは甘いよ。俺たちはこれから部下に転籍しろと言わなければならないし、転籍した会社もどうなるかわからないんだ」