特定の事業を本体から切り離して外部へ売却する「部門切り売り」。経営面ではしばしば高く評価されるリストラ手法だが、「売り買い」される当事者にとってはどうなのか。実情を追った。
※【前編】はこちら http://president.jp/articles/-/16804
自分の仕事が代替可能ならリストラ候補に
事業の売却で新会社に移籍しても社員の身分が決して安泰でないのはIBMの岡本も同じだった。05年5月1日付で新会社が発足し、約600人が「レノボ・ジャパン」に移籍した。給与などの処遇は大きく変わることはなかったが、IBM出身の初代社長が翌年9月に交代し、以後、幹部人事はレノボ主導で進められた。それでも職場の雰囲気はIBM時代と変わらなかったという。
ところが、リーマンショック後の09年以降は断続的にリストラが実施された。10年3月には業績不振による開発部門の縮小で技術者29人をリストラしている。岡本はそのときの様子についてこう語る。
「全員が集められ、希望退職を実施しますので覚悟してください、みたいな言い方をされました。また、退職金の上乗せができるのは今回しかありませんとも言われました。その結果、辞めてほしくない人が手を挙げ、辞めてほしい人が辞めないという現象が起こったのです。そのことがあってか、それ以降は一度にたくさん辞めさせるのではなく、個別に退職勧奨をするように変わっていきました。まず、定年後の再雇用で働いていた人たちは、そのタイミングで真っ先に『お引き取りください』と言われて辞めていきました。社員については個別の狙い打ちです。上司に別室に呼ばれて退職勧奨を受けて辞めていくパターンが続きました」
そして11年7月1日。レノボとNECのパソコン部門の統合を契機にリストラに拍車がかかることになった。
岡本は「会社としては両社の全社員受け入れても統合のメリットがない。1+1=1.5ぐらいに減らそうと考えたのでしょう。NEC側のことはよくわかりませんが、レノボ側でも社員を相当減らしました」と言う。
NECは09年に事業再編を目的に計2万人の大リストラを実施している。それを逃れた社員も今度はレノボとの統合でリストラの不安にさらされることになった。当時のレノボ社内では、いつ退職勧奨の声がかかるのかわからない雰囲気だった。