移籍先の会社が全員を歓迎することはありえない
「個人業績評価の5ランクのうち1がつけば即刻辞めてくださいと退職勧奨される。2はこのままでは危ないので3になるように努力してくださいと言われる。上司もサポートしますが、それでも翌年も変わらなければ退職勧奨を受けることになります。ある先輩はアメリカ人上司から『あなたに上司は必要ない』と言われました。つまり、あなたをどこかの組織に入れて使っていくことは考えていないという意味です。宣告されて何人も先輩が去っていきました。もちろん、転籍していますから親会社の東レが救ってくれることはない。転職先を自分で探すしかありませんでした」
1人去ると、外資系出身の日本人社員が新たに入り、仕事のやり方も変わっていったという。長年、年功序列の風土にどっぷり染まった社員たちにとって職場の変貌ぶりに心身をすり減らす人も発生した。とくに英語ができない社員は苦労した。会議の場で一言も発言しないために上司から「二度と会議に出る必要はない」と無能の烙印を押された人もいた。
「アメリカ人や外資出身の社員は会議では議論を深めるために自分の意見を言うことが訓練づけられていますし、何も言わない人間はメンバーである必要はないという文化がある。しかし、私たちはそういう文化で育っていません。しかも上司の指示は絶対であり、達成目標の軌道修正を求められ、それが守られなければ『あなたはこれ以上ここにいてもやることがない』と突き放されるのです」
滝沢自身はなんとか新しい文化についていこうと努力したが、最終的には外国人上司と対立し、転職を決意した。退職した翌年、転籍組に対するリストラが実施されたことを聞いた。
「45歳以上の社員を対象に大規模な希望退職募集が実施されました。皆精神的にも疲れていたのでしょう。年輩者のほとんどが辞めたといいます。しかし、その直後、30代半ばの人間を多数採用したそうです。要は人件費を削減すると同時に“血の入れ替え”を実施したことになります」
同社の事例は企業文化の違う会社に移籍した悲劇でもある。若い社員なら比較的順応できるとしても、中高年社員が風土の異なる企業で活躍するのは至難の業だろう。滝沢は「移籍先の会社が迎えた社員全員を歓迎することはまずありえません。会社同士の話し合いで引き取らざるをえない人もいます。仮に英語は好きではないのに外資系企業に移籍させられ、自分に合わないと思ったら早めに転職するのも選択肢の1つ」とアドバイスする。
たとえ大手企業に入社しても、その会社で定年まで過ごせると考えている人は少ないだろう。配属先の事業部の業績に関係なく、会社同士の経営戦略が一致すれば、社員の意向に関係なく売り飛ばされる時代なのだ。買収する企業にとっては人も大事な資産であるが、最も大事なのは「営業権」。2番目が特許などを含めた開発・技術力であり、それに付随して3番目に人がくる。
他社に移籍する場合は、まさにゼロからスタートという意識を持って人一倍の努力をしなければ、生き残ってはいけない。