アメリカ人が大挙してやってきた!
仮に社内では余人をもって代え難い人材でも、外部にそれを超える優秀な人材がいれば、クビをすげ替えることもできる。転籍後の運命は決して楽観できない。そうした悲劇は外資との合弁企業でも同じだ。
東レと米ダウコーニング社が設立した東レ・ダウコーニングはもともとダウコーニングの資本が65%を占めていたが、社員のほとんどは東レ出身、給与制度など労働条件は東レと同じ体系だった。ところが、05年、米本社がグローバル経営を軸に直接経営に乗り出してから職場は大きく変化した。株主構成が変わったわけではないが、従業員にしてみれば日本的経営の東レ・グループから、文字通りの外資系に
放り出されたようなものである。
同社出身の滝沢剛(仮名・52歳)はこう語る。
「それまでは外国人は役員1人しかおらず、米本社が株は持っていても日本流の完璧な年功序列人事制度、終身雇用でした。ところが本社の方針で世界統一の人事制度に変えるということで大挙してアメリカ人がやってきました。迎える日本人社員は戦々恐々としていたのですが、それでも人事制度は1年かけて変える緩やかなものでした。アメリカ人の上司との面談でも人の話もよく聞いてくれるし、誰もが『なんだ、いい人じゃないか』と好意的な印象を持ったものです。ところが、2年目に社員の賃金体系がアメリカ型の成果主義にガラリと変わり、従来の部長や課長が降格する事態が発生しました。一方、若手でもマネジャーに抜擢されるだけでなく、グローバル要員として米本社に派遣される社員もいました。要するに1年以上かけて日本人社員の仕事ぶりを見て選別していたのです」
滝沢は多少英語ができたおかげで降格することもなく、選ばれて海外赴任も経験した。しかし、成果に対するプレッシャーは年々厳しくなったという。