せっせと買い集めた国債がリスク要因に

顧客に選ばせるのではなく、自分たちで運用設計して高イールドを実現し、リターンを売るという方向もある。預かったお金を貸し出すのではなく、ファンドとしてマネジメントして、そのアベレージから自分たちのオペレーションコストを差し引いて顧客に金利を支払うのだ。こうしたスタイルの銀行は日本にはない。ゆうちょ銀行の巨大な資金量を活かすなら、そこを目指すのも一つの選択だ。だが、国策の裏方としてほとんど国債しか買ってこなかったゆうちょ銀行が、器用にオペレーションできるかといえば、まず難しい。世界トップクラスのファンドマネジャーを引っ張ってくるか、少なくともプロフェッショナルに預託できるシステムをつくり出さなければならない。しかしその場合も、ゆうちょ銀行の経費のほかにファンドに手数料を払うわけで、それなら投資家は直接そのファンドから買ったほうがいい、ということになる。

さらに言えば、上場する以上、国債は大幅に減らすべきだろう。上場するということは国家の御用機関ではなくなるということ。国家の自己目的化した機関として今後もやっていくのであれば、上場はなじまないと思う。現実問題、せっせと買い集めた国債がこれからはリスクになりかねない。国際的な銀行規制であるバーゼル3(国際的に活動する銀行の自己資本比率などに関する統一基準のこと。最新の枠組みがバーゼル3)で、国債のレーティングがおかしくなってきた場合には、国債は自己資本とみなされず、新たに自己資本を積み増ししなければならないという規制を設けようという話が出てきている。まだ最終決定ではないが、決まれば19年から完全実施されることになるのだ。

ゆうちょ銀行もかんぽ生命も、資産の半分以上を国債が占めている。かんぽ生命の場合、海外で事業を行っていないから一応対象外だが、ゆうちょ銀行の上場が民業圧迫と騒がれる理由の一つは、どんな事業でもどこの国でもできるようになるからだ。しかし、国際的に活動するとなればバーゼル3の規制がかかってくるし、もし日本国債のレーティングが下がれば、大幅な自己資本の積み増しを要求される。つまり、国債とともに自爆する構造になっているのだ。

貸し出し能力を持たず、国債というリスクを大量に抱えているゆうちょ銀行が上場後に民業を圧迫するほどのパワーを発揮できたら、むしろ拍手喝采である。

(小川 剛=構成 時事通信フォト=写真)
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