貸し出し能力を持たないゆうちょ銀行

ゆうちょ銀行の預金残高は15年3月末時点で約177兆円。メガバンクトップの三菱東京UFJが約124兆円だから、圧倒的な資金量を誇る。そんな巨大な金融機関が上場して普通の銀行になれば、さらに肥大化して民業を圧迫するのではと警戒する向きもあるが、余計な心配だと私は思う。銀行の役割は3つある。預金と決済と貸し出しだ。しかしゆうちょ銀行には貸し出し機能がない。貸し出し機能がないということは貸し出し能力=審査能力がないということだ。なぜ審査能力がないかといえば、審査する必要がなかったから。彼らにとって唯一の運用は、日本全国から集めた小金をまとめて国債を買うこと。国債を買って国に貸し出すのは上納金みたいなものだから、審査能力は問われない。

今の日本はトンチキな低金利政策のおかげで大銀行も含めて雀の涙ほどの預金金利しかもらえない。しかし、もし日本で本来の銀行機能が復活すれば(復活するかどうか、はわからないが)、貸し出し能力によってどれくらい稼いだかで、預金者にどれくらいの金利を払うかが決まってくる。今日のような横並びの金利ではなくて、優れた貸し出し能力を持っている銀行は高い金利をつけられるから預金が集まる、というのが自由主義社会における銀行の正当な評価というもの。貸し出し能力がないゆうちょ銀行は、正当な評価を受けるに値しないわけだ。貸し出し能力を持った相手を買収するという手はある。しかし、特定郵便局(いわゆる町の郵便局)に貸し出し業務をこなす力はない。逆に買収した会社に牛耳られるようなことにもなりかねない。

もう一つの考え方としては、昔と違って企業側に資金ニーズがないのだから、銀行=間接金融というステレオタイプな概念を捨てる。世界トップの年金マネジメント会社に供託するなどして、銀行の形態をとりながら貸し出しはせずにファンドマネジメント的な業務を主体にしていくのだ。

カナダ最大の金融機関であるロイヤルバンクオブカナダ(RBC)などは恰好のモデルになるだろう。RBCの銀行窓口に行くとどのような運用をしたいか問われる。たとえば「ショートタームの戦略ファンドに投資したい」と答えれば、いろいろ取り揃えてある関連の金融商品を懇切丁寧に紹介してくれる。もちろん定期預金もあるのだが、普通に「定期でお願いします」という人は非常に少ない。たとえば10万ドルあったら、「2万ドルはこっちのファンド、2万ドルはそっちのファンド、2万ドルはこの投信で、2万ドルはREIT(不動産投資信託)にしてくれ」というように分散するのが普通だ。そのような商品を郵貯が揃えられるか(あるいは窓口説明できるか)、というのが課題となるだろう。