世界の部品メーカーが支える
もうひとつのファクターは、世界の部品メーカーのパワー。技術力のある部品メーカーは自動車メーカーから指示された仕様で部品を作る下請け的なモノづくりから、この部品を使えばどのメーカーでも性能の良いものを作ることができるというソリューション型のビジネスへの転換をはかってきた。その巨大な果実が実りつつあるのだ。
ボルボはガソリンエンジン、ディーゼルエンジンとも、日本の部品メーカーであるデンソーと共同開発を行っている。7月に日本で発売したディーゼルは、世界最高レベルの2500気圧もの圧力で燃料を噴射するデンソーの「i-ART」システムを使い、高出力と低燃費を両立させている。i-ARTは単に噴射ポンプを作るだけでなく、エンジンをより高度に制御するためのセンサーやコンピュータも含めた技術パッケージだ。そのシステムを使ってきちんと設計すれば、大規模メーカーと同等の高効率ディーゼルエンジンを作れるのである。
もちろんそういったソリューション型の技術パッケージは、部品単体を買って自動車メーカーが設計をゼロから行うのに比べれば高くつく。小規模メーカーにとっては研究開発部門を必要以上に肥大化させずとも高度なモノづくりができるため、投資が少なくてすむというメリットもある。さらに要素技術の開発にかける労力を、走りの良さや快適性、デザインなど、車の付加価値を高めることに振り向けることができるということも大きい。小規模メーカーと大規模部品メーカーは、Win-Winの関係を築きやすい間柄になっているのだ。
かつて、自動車産業への参入障壁の最たるものは技術であったが、日産自動車のカルロス・ゴーン社長は「今の最大の参入障壁は巨大な投資を必要とし、そのリターンが少ないこと」と語っている。小規模メーカーにとって一番の課題はそのリターンの少なさなのだが、ジャガーの決算を見てもわかるように、高付加価値モデルを主体とすることでその障壁は乗り越えることが可能だ。日本陣営で小規模・高収益企業として注目を浴びているスバルにしても、作っているモデルはノンプレミアムだが、利益の薄い軽自動車やコンパクトカーから撤退し、自社生産モデルは欧州Cセグメント(フォルクスワーゲン「ゴルフ」などのクラス)以上。実は販売価格の高いモデルに絞っていることも、利益拡大の一因である。
ボルボの新型ディーゼルを載せたモデルの高いパフォーマンスと走り味の良さは、車作りのコモディティ化によって小規模メーカーの不利な部分が急速に縮小していることを印象付けるものだった。自動車業界は今後ふたたび再編に向かうのか、それとも多様性という新たな様相を呈するのか、その動向から目が離せない。