車作りを激変させた設計技術の進化
新ディーゼル「D4」は排気量1968cc、直列4気筒ツインターボで、スペックは190ps/40.8kgm。そのパワー感は1.6トン級のボディをスポーティに走らせるのに十分なもの。高速道路の流入路から本線車道への合流時も、フルスロットルを与えれば3秒もかからないうちに法定速度に達した。また、山岳路の登り急勾配でもスロットルペダルに軽く足を乗せるだけで何のストレスもなく、ぐんぐん高度を稼ぐことができた。
動力性能だけでなく、燃料消費の少なさも最新ディーゼルとして第一級の性能を有していた。S60は車重1.6トン超の中型セダンだが、JC08モード燃費は20.9km/リットルと、非ハイブリッドカーとしては非常に良い数値をマークしている。実走行では高速道路で全開加速性能を試したり山岳路を走ったりと、決して燃費に良い走り方はしなかったが、平均燃費計の数値はそれで16.5km/リットル。瞬間燃費計の動きを見るに、省エネ走行をすれば長距離ツーリングでは楽々と20km/リットルを超えられそうだった。V40はS60と同じエンジン、変速機を搭載しながら車重が80kg軽いこともあって、さらに軽快であった。
ちなみに2月には245psを発生する新世代2リットル直噴ガソリンターボ「T5」を搭載する大型ステーションワゴン「V70」を東京から青森までテストドライブする機会があったが、こちらも1.7トンの車重をものともせず、高速道路を優速で悠々とクルーズさせる能力を持っており、燃費は14km/リットル。乗り心地の良さなど味付けの部分についても、世界のラージサイズのプレミアムブランドに一歩も引けを取らないものだった。このレベルの商品作りを続け、顧客の支持を得られれば、高収益体質をものにすることも不可能ではないであろう。
興味深いのは、これまで規模の産業と言われてきた自動車業界で、スバルの半分程度の生産台数しかないジャガーやボルボのような小規模メーカーがハイレベルかつ独自性の高い商品作りを継続的に行うことができる時代が到来しつつあるということだ。それには2つの大きな理由がある。
ひとつは設計技術の進化だ。かつて、車作りは膨大な時間、予算、人員をかけ、さまざまな実験を繰り返して行う必要があった。が、ここ10年ほどでその状況は大きく変わった。設計の現場に革命をもたらしたのは、設計を行うためのソフトウェアだ。オーストリアにAVLという会社がある。モータースポーツの最高峰、F1のマシンを設計するためのソフトウェアをリリースしていることで知られているが、近年、その経験を生かしてモータースポーツにとどまらず、市販車のエンジンや車体を設計するためのソフトも販売するようになった。
このソフトを試したことのある大手メーカーのエンジニアは、印象を次のように語る。
「設計現場におけるデジタル技術の進化は、世間のイメージをはるかに超えています。AVLのソフトにしても、我々が秘中の秘としてきたノウハウの多くを丸裸にしてしまうような能力を持っていて、とくにシミュレーションは、極端にいえばこれまで1万パターンを試さなければならなかったところを100分の1の100パターンですんでしまうくらい。エンジン、ハイブリッドシステムやボディの剛性、衝突安全設計、コスト計算はもちろん、たとえばこのボディにどういうパワーのエンジンを載せ、どのようなサスを組み合わせればニュルブルクリンクでどのくらいのタイムが出せるかといったことまで、驚くほど正確に計算できてしまう。大規模メーカーでなければ高度な設計ができないという時代は、すでに終わりつつあると思う」