日本の漁業や農業を取材すればするほど、この手の話には事欠かない。十勝ワインにブルガリアのバルク(樽)ワインが混ざっていたり、ホクレンが出荷するアスパラやブロッコリーが実はオーストラリアのクイーンズランド産だったり……。このことを本に書いたら、ホクレンから出版停止と本の回収を求められた。しかし私はクイーンズランド州政府に情報請求して、州政府とホクレン・インターナショナルが交わした契約書を手に入れていたのでそれを示すと、向こうは簡単に引き下がった。

ホクレンの輸入業者化に気づいたのも、自分が主宰する勉強会でクイーンズランド州を訪ねて、日本向けの輸出品目リストを見せてもらったことがきっかけだった。それがどこに行っているのか調べているうちに、オーストラリアでは行政府に情報公開を求めることができると聞いて、地元の友人に農産物の買い手の情報を請求してもらった。入手した資料には「ホクレンは本契約に神経質なので口外しないように」という脚注があったのには笑えた。それ以降、「ホクレンのXX」という箱に入っているものは輸入品、北海道産と書いてあれば間違いなく国産、という識別があることに気がついた。

世の中にはネットやメディアだけではたどりつけない情報がある。自分の足で調べなければ気づかないことがあるのだ。知的好奇心を持つ第三者の目で行動し観察・思考することも、「気づく力」につながる大事な要素ではないかと思う。

大前研一
1943年生まれ。マサチューセッツ工科大学院で博士号取得。マッキンゼーのアジア太平洋地区会長を経て、現在はビジネス・ブレークスルー大学学長。
 
(小川 剛=構成 市来朋久=撮影 AFLO=写真)
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