来年度から公立中学校で使用される教科書は、各市町村の教育委員会がどの教科書を使うか8月末までに採択し、文科省に報告される。事実上現場の教員の推薦によって決定されていたこれまでの慣行をなくし、採択を適正に行うよう文科省は通知を出し求めた。教育評論家で、過去に東京書籍に在籍したことのある野田数氏は教科書選定の問題点をこう分析する。
4年に1度行われる中学校の教科書採択で、いま最大の焦点となっているのは東京書籍版と育鵬社版の歴史、公民の教科書の動向です。
東京書籍は教員に支持を受けていることでシェアナンバー1の地位を不動のものにしてきました。これは何を意味するか。教育委員が会議で責任を持って教科書の採択を行うルールが形骸化されてしまったのです。現場の教員が推薦する2~3社程度の中から選ぶ「絞り込み」という行為が行われ、教育委員がそのまま追認するのです。
いまでも行われている「絞り込み」は悪慣行であるばかりでなく、そもそも違法行為です。文科省は今春、その禁止を明記した通知を出しています。絞り込みが横行すれば教員に支持される教科書をつくらざるをえず、日教組や全教といった教職員組合の教員が多い現在、どうしても「左寄り」の教科書が選ばれてしまう現実がありました。これでは、生徒が使う教科書は、公正・公平な視点で選べなくなってしまいます。
一方、育鵬社はフジサンケイグループ、扶桑社の子会社として4年前の前回から参入しました。安倍政権の教育再生の取り組みによって教育委員会が主体的に教科書を選べるようになった一方で、首都圏でもまだ絞り込み作業が行われています。たとえば埼玉県内の市長村。中学校の歴史の教科書はすべて東京書籍が採択されています。採択地域がたくさんあるのに、組織的な絞り込みが行われている例です。
今回、学習指導要領にもっとも忠実な教科書である育鵬社と、シェア1位で左派系の東京書籍の一騎打ちになると予想されています。