7月23日に発表された日経新聞による英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)買収は、率直にいって、失敗する要素が多い。すなわち、悪い企業買収の典型である「サラリーマン買収」のように見える。
ほとんどの企業買収を成功させてきた日本電産では、創業者で筆頭株主の永守重信会長兼社長が考え抜いて買収を決め、責任を持ってハンズオンで経営改革に着手する。自分自身のこととして買収を検討し、自ら経営にあたる。
これに対して、東芝の例でもいえることだが、永守氏のような創業経営者やオーナー経営者と違い、サラリーマン経営者たちは見栄が第一で、長期のビジョンや覚悟もないまま、経営上の決断をしがちだ。「サラリーマン、どこまでいっても、サラリーマン」なのである。
その典型例が、日本の金融機関による海外企業買収で、成功例は過去に1つもない(辛うじて、住友銀行がバブル期に行ったゴールドマン・サックスへの出資が、シナジー効果は皆無だったが、その後、ゴールドマンの株価が上昇したために、キャピタル・ゲインをもたらした)。
そうした「サラリーマン買収」を実行した経営者は、巨大買収を決断したトップとして大きな顔ができるが、買った企業の経営は部下や後任者に丸投げし、失敗が明らかになった頃には、会社を辞めて涼しい顔をしている。
今回のFT買収も、「サラリーマン買収」の外的要件を備えている。理由の1つは、決め方が性急で、どの程度熟慮されたのか疑問であることだ。表向きは「3年前からひそかに英字新聞の買収を検討してきた」ことになっているが、それを額面通り受け取る人は少ないだろう(国内の販売部数が頭打ちで、アジアでも知名度が上がらず、「どこか英字紙でも買収するしかないか」という程度の話は、ときどき社内で出ていたと聞く)。