リーマン・ショック以後、延々と続いてきたギリシャの破綻騒ぎがようやくヤマ場を迎えた。債権者のドイツやEUなどがギリシャ政府に対して求めたリストラ案が、ギリシャの国民投票で拒絶されたのだ。

ドイツ・EU側としては、ギリシャ側の要望に譲歩すれば悪しき先例を生むことになる。強硬姿勢を崩すわけにいかない。

ここ数年間、アベノミクスで好調だった日本人としては、ギリシャ危機は遠い世界の、ほぼ無関係な話だと受け止めたいところだ。だが実は、日本はおろか、どの先進国にとっても、ギリシャ危機は他人事ではない。その点がぼやけてしまうのは、ギリシャ危機が2つの危機の複合体だからである。

第1の危機は、一国の経済力とその通貨価値とのギャップがもたらす経済危機である。使う通貨の価値が実体経済の実力を大きく上回った国は、産業の競争力が失われ、国内経済が疲弊してしまう。ユーロに加盟したギリシャもその例に漏れなかった。勤倹貯蓄を国民性とするドイツの生産性を基準にしてその価値を決めているユーロは、のんびり気質で生産性が低いとされるギリシャ人には分不相応だったようだ。

国民投票で、“緊縮NO”票が6割を超え、歓喜するギリシャ国民。(写真=Getty Images)

だが主要先進国の通貨価値は、アメリカ、カナダ、イギリスにしても、ユーロの中核をなす独仏にしても、おおかた実力相応のところに落ち着いている。日本円にいたっては、アベノミクスのおかげで、今では実力よりもだいぶ低い為替水準にある。為替危機は、現在の主要先進国には無縁の話である。

だが、ギリシャ危機を構成するもう1つの危機――有権者に対して甘い約束を重ねてきた揚げ句の財政破綻は、日本を含むすべての先進国に起こりうる事態だ。少子化が進む中、年金負担が政府財政を蝕みつつあるためである。

そのやりくりがとうとう限界にきたのがギリシャだったというわけだが、実は5月中旬にアメリカを代表する大都市シカゴの市債が大幅に格下げされている。また、アメリカのプエルトリコ準州は、7月1日時点でかろうじて債務不履行を回避したが、破綻は時間の問題とされている。世界最大の経済規模を誇るアメリカも、実は財政面では無数の“ギリシャ”を抱えているのである。