むろん真相は不明だが、高齢者の1人暮らしの場合、生前に悪意のある人や利害関係者が訪れ、こっそり持ち去っていたとしても気が付かないおそれはある。現場ではそうした事態に出くわすこともある。だからこそ、遺品整理業者には高い信用度が求められるのだ。
「できることとできないことをはっきりと言う業者は信頼していいと思います。たとえば、うちでは屋内に注射器があったらお断りします。実はある現場で、ベッド下に落ちていたインシュリン注射の針を誤って手に刺してしまったことがあります。大学病院に2年も通って検査を受け続け、事なきを得ましたが、もし肝炎に感染していたらと思うとぞっとします」
ところで、遺品整理が必要になる前に、本人や家族が気をつけるべきポイントは何か。内藤さんのアドバイスは次のようなものである。
「親が何を持っていてどれを大切に思っているか。生前に耳を傾けておかないと必ず後悔します。たとえば、故人のぬくもりが残る洋服は捨てがたいものです。とりわけ母親の衣類、父親のスーツはなかなか捨てる決断がつきません。遺品整理のときに途方に暮れ、悔やんで涙を流す遺族を何度も見ています。自分自身も『どうすれば遺族が困らないか』という視点で生前整理をしておくべきです」
内藤さんの経験では、警察官や自衛隊員の家はモノが少なく、驚くほど片付いている。死と隣り合わせの仕事だから、残された人に迷惑をかけない振る舞いが身についているのだ。ただ、一般家庭の場合、遺族だけでは遺品整理をやりきれないケースが少なくない。
だからこそ「年老いた親御さんには、生前整理を持ちかけておくべき」というのが内藤さんの考えである。
「お孫さんがいる場合は、『遊びに行くときに危ないので片づけておいてね』とお願いする手があります。話を聞くときは、『どれを捨てていいか』ではなく『どれを気に入っているか』を聞いておきましょう。いい写真を3枚ぐらい確保しておけば、膨大なアルバムは処分できますし、遺影選びにも苦労しません」
【ANSWER】できる限り生前整理したうえで、信頼のおける遺品整理業者に依頼する
1960年生まれ。京王プラザホテル勤務などを経て、2005年から遺品整理業に携わる。著書に『もしものときに迷わない遺品整理の話』