巧妙な財政破綻を起こして乗り切る
実際、かねてからいわれる通り、わが日本も、財政破綻の危機は深刻である。税収が公的債務の5%しかないのである。現在の超低金利が他国並みに正常化しただけで、税収がすべて国債の利払いに消えてしまうのだ。国債が暴落する日は遠くないかもしれない。そしていざ破綻という事態になれば、最大の金融資産である国債が紙屑になるわけだから、銀行の多くは倒産し、銀行預金の何割かは消滅する。深刻な不況が何年かは続くだろう。
だが戦争と違って生産設備が破壊されるわけではない。ギリシャの場合でいえば、パルテノンもエーゲ海もそのままだ。財政破綻とユーロ脱退の粉塵がおさまった後には、格安観光地となったギリシャは、世界中からのお客さんで溢れるようになるだろう。企業の場合と同じく、破綻は再生への第一歩なのである。
いや、日本史の先例からいえば、明治維新は江戸幕府の財政破綻と表裏一体だったし、敗戦時にも政府は巧妙に財政破綻を起こして、これを乗り切っている。もし現在の日本の財政が破綻すれば、個人レベルでの悲劇を無数に目撃することになるであろう。だが、日本人には破綻を次の飛躍への踏み台とする知恵が備わっているのだ。
こうして見ると、ギリシャ危機の最大の教訓は、もともと無理のあったユーロ加盟にこだわっても、国民の苦痛が長引くだけだったという事実にあるのかもしれない。たとえ破局に見舞われようとも、賃金や為替など、主立った指標が自然な水準に落ち着けば、そこから必ず新しい成長が始まるのである。やがて先進諸国を痛撃することになる財政危機の先駆的な事例が、遠い昔に滅びた国家を蘇生させる形で誕生したギリシャで起きたというのは、どうやら偶然ではなさそうだ。