幸福感は人工的につくり出せるか
自由選択に関する実験として、50代の被験者たちに6つのアイテムを好きな順にランク付けしてもらうものがあった。被験者にモネの絵を6枚与え、一番好きなものから気に入らないものへと順に並べてもらい、またこんな選択肢を提示する。「予備の絵を、実験のお礼にひとつ差し上げます。残っているのは、あなたが3番目と4番目に順位付けをした絵です」。残ったふたつの絵はさほど好きなものではないはずだから、選択は難しい。けれども、多くの人は3番目のアイテムを選ぶ。4番目の絵よりは好きだったのが理由だ。
その後、数時間~数日後に被験者の前に同じ絵を並べ 、再度、好きな順にランク付けをしてもらうとどうなるだろうか? 「私が選んだ絵は思ってたより、ずっといい!」「選んでいないほうの絵はよくない!」という感覚が働き、自ら幸福をつくり出だす結果になる。つまり2回目の順位では、自分がもらった絵がトップにきたそうだ。
では、健忘症患者では何が起こるだろう? 彼らは2度目に逢う時には実験者の顔はもちろん、自分が選んだはずの絵も認識できないから、意識的に絵の順位をあげることは難しい。ところが、ここでも3、4番目の「自分のものになった絵」が一番好きな絵に変わるという。選んだものは認識できないが、自分が持っているものはわかる患者。彼らがこの絵を選び幸せをつくり出せたのは、絵に対する美的感覚や喜び方まで変化させたということ。これが、人が幸せをつくり出す免疫力というわけだ。
さらに、学生に3つの選択肢で、写真を提出する課題を出す実験がある。その提出の仕方に選択肢を残すか、選択が余地がないかで、提出後の心持ちが違うというものだ。3つのグループでそれぞれ次のような方法で提出させる。
グループA:ふたつの写真のどちらかを提出、1枚を手元に残せる
グループB:4日間、選んで提出した写真を変更することができる
グループC:ひとつも手元に残せず、海外に送るものだけをすぐに選ぶ
Aの、どちらかを手元に残せる場合、「一番いいものが提出できたか」と不安になる。Bの選択する写真を交換できるなら、いつまでも迷いが残る。ところがCのようにすっぱり期限を切られ、選択した物も交換の余地がなければ迷いも不安もぬぐわれるため、これが、一番の幸せをつくる方法というわけだ。
自由は、自然に生まれる幸福と相性がいい。なぜなら、たくさんの魅力的な未来から、最も楽しめるものを選ぶことができるからだ。ところが“選択の自由”となると、人が自らつくり上げる幸福とは相性が悪い。選択肢が多いほどに、満足を得にくくなり、結果的に自分で生み出すはずの幸福感を味わいにくくなるからだ。
では、こうした性質を交渉や説得に活かすには、どのようにしたらいいだろう。