[3] 破壊的機会には、特別の事業計画策定軌道が必要
企業がさまざまな形のイノベーションにすべて単一のプロセスで対応しようとすれば、そこから生まれるものは過去に承認されたものと似通ったものになる。それでは持続的イノベーションと同じになってしまう。
IBMの音声認識ソフトの開発を考えてみよう。同社の「Via Voice」ソフトパッケージの初期のバージョンは、IBMの「理想的な」顧客、つまりコンピュータの前に座りヘッドセットに向かって話す経営幹部秘書を想定したものだった。優秀なタイピストを惹きつける唯一の方法は、タイプより速くて正確な音声認識システムにすることだが、これは技術的にきわめて高いハードルだった。
音声認識技術はどこでテークオフし始めたのか。子供たちは、おもちゃの動物に「進め」とか「止まれ」とか命令するのが大好きだ。「キーを押すか、1と言ってください」というメニューコマンドは、もう1つの確実な応用だろう。これらの文脈の中では、人々は性能の低い音声認識製品で十分満足する。この技術のもう一つの有望な市場は、空港でポケベル「BlackBerry(ブラックベリー)」にメッセージを打ち込んでいる幹部ビジネスマンたちかもしれない。正確に打ち込むには彼らの指は太すぎる。80%の正確さしかない音声認識アルゴリズムでも、彼らは喜んで飛びつくだろう。
破壊的アイデアは、持続的イノベーションを識別し、商品化するために用いている基準で評価されたら、日の目を見るチャンスはほとんどなくなる。
破壊的アイデアを発展させ、形にしていくプロセス──その破壊的な特徴を認識するプロセス──を別軌道としてつくることによってのみ、企業は破壊的イノベーション製品を次々に送り出せる。そのようなプロセスは、データ中心の市場分析よりも、むしろパターン認識に基づくものになる。なにぶんにも存在していない市場なのだから、分析のしようがないのだ。