2つ目のタイプの破壊的イノベーションは、既成市場で最も収益に結びつかない顧客を狙う。こうしたローエンドのイノベーション製品は、新しい市場は生み出さないが新しい成長を生み出すことはできる。鉄鋼の電炉メーカーによって高炉メーカーが駆逐されたことは、ローエンドの破壊者がいわゆる「動機の非対称性」をどのように利用するかを物語っている。

電炉メーカーが初めて鉄鋼産業に定着したのは60年代の半ばのこと。きわめて効率的で、高炉メーカーより20%低コストで操業することができたが、鉄鋼の品質は劣り、業界の1番下に位置するリバー(鉄筋)市場(スクラップからつくられる小型鋼棒)が、電炉製品を受け入れる唯一の市場だった。

電炉メーカーがリバー市場に参入すると、高炉メーカーはこれ幸いとそこから撤退した。もっと利益率の高い製品に集中することにしたのである。電炉メーカーは大いに儲けたが、やがてこの市場に高炉メーカーが一社もなくなると、リバーの価格は20%下落した。リバーは基本的に汎用品になったのだ。

そこで電炉メーカーはより質が高くもっと大型の山形鋼などの鉄鋼製品を生産する方法を考え、より大型の鋼材をつくる設備に投資するとともに、品質を高める努力を重ねた。そして高炉メーカーはさらに収益性の高い製品に集中するようになった。

こうした展開が何度も繰り返されていった。ここに二者のモチベーションの非対称性が生じた。電炉メーカーにとっては、より収益性の高い市場に参入しなければ生き残れないという思いが技術的ハードルを越えるモチベーションになったが、高炉メーカーは、ここぞとばかりハイエンドの、より収益性の高い製品の市場に逃げた。いうまでもなく、最終的には逃げていく市場はなくなった。