長い歴史と表裏一体のように、古い体質や商慣行が残る業界。独裁的になる懸念があるオーナー経営ではなくても、トップに権限が集中し、独断専行を防げない企業体質。そんな欠陥が露呈し、時代にふさわしい開かれた経営、コーポレートガバナンスがきいた経営へと変わる必要性を、痛感する。自分に限らず、社員誰もがそうだったに違いない、と思う。
2005年5月、社長に就任。3年弱で、伊勢丹との経営統合をはたす。持ち株会社を設立、その下に2つの百貨店がぶら下がり、のちに百貨店同士が合併した。この経緯などについては次号で触れるが、40代後半に「百貨店は、もしかしたら、そう簡単には生き残れない」と思わされた体験があり、そこから到達した結論だ。
でも、いまでも厳しさは感じているが、悲観はしていない。百貨店の特徴は、ネット販売とは違ってお客と「フェース・トゥ・フェース」で接する消費者密着型、店がある地域の特性に合わせた品揃えやサービスを整える地域密着型だ。ここで差別化を広げれば、ネット万能のごとく言うむきの予測を、覆すこともできる。
企業文化が大きく違う伊勢丹と三越でも、表舞台で活躍する面々と裏舞台で支える面々の双方が大切な点は、共通だ。合併で一度、人事制度を簡素化した。だが、専門職を評価し、大事にする仕組みは、復活が必要だ。常に顧客第一で行動し、「善行無轍迹」という社員が多ければ、遠からず、具体化するだろう。
1949年、東京都生まれ。72年東京大学法学部卒業、三越入社。本店副店長、本社業務部長、経営企画部長などを経て、2005年社長就任。08年伊勢丹と経営統合、持ち株会社「三越伊勢丹ホールディングス」設立、社長に。12年より会長。