昨年3月まで三越伊勢丹HD社長をつとめた大西洋氏。「伊勢丹メンズ館」の成功など多くの業績で知られる“カリスマ”の目に百貨店受難の時代はどう映るのか。小売業界、日本経済の未来は? マーケティングコンサルタントの酒井光雄氏が、豊かな経験に裏打ちされたミスター百貨店の思考に迫る。
大西洋氏=左、酒井光雄氏=右

一番ツラかったのは売り場での3年間

【酒井】大西さんは2009年6月に伊勢丹社長に就任、2012年2月には三越伊勢丹ホールディングズ代表取締役社長、三越伊勢丹代表取締役社長に就任。以降、2017年4月に退任されるまでに、社内でさまざまな改革に取り組まれました。

退任されてから少し時間がたちましたが、今も百貨店を訪れることはございますか。

【大西】現場でお客様と接しているのがずっと好きでしたので、今でも客としてお店や百貨店に入っても、訪れている方たちのライフスタイルに思いを巡らせて、そのニーズにどのような価値が提供できるだろうか、というようなことはつい考えてしまいますね。

【酒井】大西さんは、百貨店経営者として、セール時期の後ろ倒し、営業時間の短縮、また「仕入れ構造改革」と銘打って百貨店が長年続けてきたビジネス構造にもメスを入れられました。そういった「常識」に立ち向かっていく姿勢は、非常に学ぶべきことが多いと感じています。なかでも、販売スタッフの歩合制導入など販売職の地位向上に力を注がれたと思いますが、そこにはどのような思いがあったのでしょうか。

【大西】ひとつは自分の経験が影響しています。百貨店における38年間の自分のキャリアの中で、一番大変だった時期はいつだったろうと考えると、入社後3年間、店頭に立って販売をしているときでした。私がいたのは、東京・新宿伊勢丹本店の、当時は「男の新館」と呼ばれていたメンズファッションの売り場でした。

販売スタッフにとって、店内はひとたび入れば「戦場」です。一日立ちっぱなしでトイレに行くのもままならない。体調がすぐれないときでも、自分の自由な時間は一切取れませんから、「少し休憩をとって気晴らししよう」ともいかないわけです。